43 編集者を雇ってみた⑥
「おはようございます」
朝になりあくびをしながらリリアがテントを出る。
見るとすでにカルミアとメイスイは起きていた。
「おはよう、リリア」
リリアに向かってメイスイが朝の挨拶を返してくれる。
次にリリアはメイスイとは離れた場所に座るカルミアを見つめる。
「…なんだ」
「いえ、なんでもありませんよ。カルミアさんもおはようございます!」
「…おはよう」
おはようと返してくれたカルミアに対してリリアは笑顔を向ける。
昨日あの後、特にやることもなく寝ることにしたのだが、その際カルミアを縛るようなことはしなかった。だけど逃げることはせずにここにいてくれている。
少し怪しい部分もあるしぶっきらぼうな物言いではあるが、やはり悪い魔族ではないのだろう。
そんなことを思っているとメイスイが迫ってきた。
「さあ、早く朝ご飯にしようよ!僕は早く街の中に行きたいんだから」
「ちょっと待ってくださいね」
せかすメイスイを制止しながらリリアが鞄の中に手を入れ朝ご飯になりそうなものを探す。
さすがに今朝の分はあるが、もう少なくなってきているからクラケスでは出発前に買い足しておかなければならないだろう。
「どうぞ」
「ありがとう」
「カルミアさんもどうぞ」
メイスイに渡してから次はカルミアに差し出す。
それを見たカルミアは少し遠慮するような顔をして言った。
「いいのか?」
「もちろんですよ。だってもう仲間でしょう?」
リリアがそう答える。
するとカルミアは、ありがとう、と一言だけ言って受け取った。
リリアも座ると自分の分を出して食べ始める。
ふとカルミアの方を見ると少し口元が笑っているように見えた。
「さて、そろそろ出発しますか」
朝食を食べ終え、準備を終えたリリアが言う。
起きてから時間もいい感じに経ち、そろそろ門も開いている頃だろう。
さあ行こう。
そう思いリリアとメイスイは歩き出そうとした。
するとその背中に向かってカルミアが問いかける。
「お前たちこれから人間の街に行くんだよな」
「そうですよ」
リリアがそう答えるとカルミアは少し考えるような素振りをする。そして再度口を開いた。
「私は入れなくないか」
そう言われてリリアはハッとした顔になる。
すっかり忘れていたがその通りである。
カルミアは人間じゃなくて魔族なのだ。ぱっと見人間の女の子に見えるが、その頭には2本の角が生えている。
堂々と門を通ろうとすれば、魔族だとばれて問題どころか大問題になってしまうだろう。
「たしかにそうですね…。どうしましょうか」
「えー、やっと街の中に入れると思ったのに入れないって本当!?」
このままでは街の中に入れないということを聞いたメイスイがすねるように言う。
「いや、それなら私だけ街の外で待っていればいいだけの話だからな。お前たちだけで行ってきてくれ」
カルミアはそう言うが、一緒に旅をしようといった先から別れるのは嫌である。
とはいっても、必要なものの調達のために街の中に入らなければならないのも、カルミアがこのままでは街の中に入れないのも事実である。
さてどうしたものであろう。
リリアは考える。
フードを被るという手もあるが、門ではきっと外さなければならないだろう。それに万が一入れても街の中でいつばれるともしれない。
いっそのこと角を消せてしまえばいいのに。
「…あっ!」
ふいにリリアは思い出す。
そう言えばソクルでダンジョンを攻略したときに変化の魔導具であるネックレスを獲得していたのだ。
もしそれが使えれば角を消せるかもしれない。
そう考えてリリアは鞄の中からネックレスを取り出すとカルミアに渡す。
「これを使ってみてください」
「これは?」
「変化の魔法石が埋め込まれた魔導具です。もしカルミアさんに使えたら角を消せるんじゃないかと思って」
ネックレスを受け取ったカルミアは首にかけると、目をつぶり魔力をこめ始める。
すると角がすぅっと消えてなくなった。
角があった場所は何もなかったようになっており、もう人間の女の子にしか見えない。
「どうだ?」
「ばっちりです!これならきっとバレませんよ」
角があった場所を触りながら聞くカルミアにそう返す。
変化だから見た目だけでなく実際に角がなくなっているようだ。
さて、これで街の中に入れるだろう。
「じゃあ、早く行こうよ!」
待ちきれないとばかりにメイスイはそう言うと小さくなる。
リリアは小さくなったメイスイを抱えるとカルミアとともに街の方へと歩き出した。
しばらく歩くと門がはっきりと見えてくる。
まだ朝早くではあるがすでに何人かが入るために審査の列に並んでいる。
リリアたちもその最後尾に並ぶ。
前の方で問題が起きる様子もなく、列はどんどん進んでいく。そして、ついにリリアたちの番になった。
ドキドキする心を抑えながら前に進む。
「身分証を」
門兵に言われてリリアは冒険者カードを差し出す。
「後ろの君は?」
カルミアの方を見て門兵が言った。
そう言われてリリアはドキッとなる。
そう言えば魔族だからカルミアは身分証など持っていないのだ。
「ええっとですね…」
「すまない、旅の途中で落としてしまってな」
リリアが言葉に詰まっているとカルミアが代わりに答えた。
門兵はカルミアの身なりを少し観察する。
危険な人物じゃないかを見ているのだろうか。
しばらくして門兵が再度口を開く。
「そうか、まあ仲間が身分証を持っていたから今回は入っても大丈夫だろう。クラケスには冒険者ギルドもあるしそこででも発行してもらうといいぞ」
「わかった」
何とかカルミアは審査に通ったようである。
リリアは内心胸を撫でおろした。
次に門兵はメイスイの方を見る。
「因みにその狐は君の使い魔か?」
そう聞かれてリリアははいとだけ端的に答えた。
「わかった。問題なさそうだし入っていいぞ――。次」
そう言うと門兵は次の人の審査へと移っていった。
ばれなくて本当に良かった。
こうしてリリアたちはクラケスの中へと足を踏み入れたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます