42 編集者を雇ってみた⑤
「ありがとう、おいしかった」
パンの最後の一欠片を口の中に入れたカルミアが言った。
さて早速話を聞こう。
そう思いリリアはカルミアと目を合わせる。
「少しでもお腹が満たせたようならよかったです。それでは話を聞いてもいいですか?」
「ああ」
「わかりました。では、なんで人間の国であるコレスティア王国の領土内に魔族であるカルミアさんがいるんですか?」
取り敢えず今一番聞きたいことを尋ねる。
カルミアはどう答えようと考えるように少し俯いた後、再びリリアの顔を見て口を開いた。
「私は…追われているんだ」
「追われている、ですか?」
「そうだ。同じ魔族の同胞にな。それで追っ手から逃げるためにこの国に入ったんだ」
「なんで追われているんですか?」
「それは…」
カルミアが目をそらしながら言いよどむ。
何かやましいことでもあるのだろうか。少し怪しい。
そうは思うもののリリアは次に質問をすることにした。
「では、次の質問をさせてください。コレスティア王国には聖女の結界が張ってあるはずなんですが、カルミアさんは今何ともないのですか?」
再びこちらを見たカルミアは首をかしげる。
「結界か?結界が張ってあったことは知っているが、私が入ってきたときはそんなのはなかったぞ。それに今だって何ともない。人間たちが解除したんじゃないのか?」
そう聞いて今度はリリアが首をかしげる。
聖女の結界が張られていないなんてことは今まで一度もなかったのだ。だからこそそれは変な話なのである。
さすがに元聖女といえども結界の有無を何の道具もなく感じ取ることはできないから今結界が張られているのか張られていないのかはわからない。しかし、カルミアの言う通り本当に今結界がないとしたら大変な事態である。
そう考え少し焦るも、リリアはすぐに落ち着きを取り戻した。
何か問題が王都で起きているのかもしれないが、そもそも自分にはどうすることもできない。
それにシンシアという自分より優秀な聖女がいるのだ。何かあってもすぐに対応してくれるであろう。
気を取り直してリリアは最後の質問をする。
「カルミアさん、それでは最後の質問をさせてください。この国に入ってから人間を傷付けるようなことをしましたか?それとこれからそのようなことをする気はありますか?」
今までよりも真剣な顔で尋ねる。
するとカルミアも同じように真剣な顔をし、一拍おくと答えた。
「したこともないしする気もない」
その瞳はまっすぐリリアを見つめており、嘘がないことを物語っている。
「わかりました。答えてくれてありがとうございます」
リリアは立ち上がるとカルミアに近づく。そして、その拘束を完全に解き始めた。
「拘束を外してもいいのか」
「はい、カルミアさんが悪い人じゃないことはわかりましたから」
今までの話を聞いた限り人間に害を及ぼすような魔族ではなさそうである。だから、大丈夫だろうと判断したのだ。
拘束が外れ完全に自由になったカルミアは立ち上がると、体をほぐすようにして少し動く。そして、こちらを向くと頭を下げた。
「あまりにも空腹だったとはいえお前たちの食料を奪って悪かった。ちゃんと謝らせてくれ。すまなかった」
「いえ、そんなに謝ってくれなくても大丈夫ですよ。空腹は人間にとっても魔族にとっても敵ですからね。もう怒っていませんよ。ですよねメイスイさん?」
そう言いメイスイの方を見ると少しばかり頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。まだ、怒っているらしい。
「カルミアさんはこれからどうするのか決まっているのですか?」
怒ったままのメイスイからカルミアへと顔を向け尋ねる。
「いや、とりあえずこのままこの国に居ようとは思う。まさか追っ手も人間の国に居るとは思わないだろうしな」
「じゃあ、私たちと一緒に行きませんか」
リリアがそう言うとカルミアが驚いたような顔をした。視線を感じて後ろの方を見るとメイスイも、本当に言ってるのそれ、といったような顔でこちらを見ていた。
「えー、リリアそれ本気で言ってるの?」
「本気ですよ」
「だって僕らの食べ物をとった泥棒だよ」
「まあいいじゃないですか。反省もしていることですし」
渋るメイスイと話していると今度はカルミアが口を開く。
「いや、お前たちにこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないからな。私からも断らせてもらおう」
「でも、予定は特にないんですよね」
「まあそうだが」
「それじゃあ私のお願いということで着いて来てくれませんか。せっかく助けたのにまたお腹が空いて倒れても嫌ですし」
リリアがそうカルミアを説得する。
確かに先のわからないカルミアがもう空腹で倒れないように助けたいといった気持ちが大きい。これでも元聖女なのだ。
だが、そのほかにも自分の見える場所に魔族であるカルミアをおいておきたいという思いもあった。悪いことをすることはないだろうが、さっきの質問では少し怪しい部分もあったのだ。何か問題が起きる可能性は低くしておきたい。
メイスイとカルミアの二方面から渋る声を浴びていたリリアだが、最終的には両者ともに納得してもらうことが出来た。
「それではよろしくお願いしますね、カルミアさん」
「…まあ僕からもよろしくとだけ言っておくよ」
「ああ、これから世話になる」
こうして新たな仲間が一人加わったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます