剣道部顧問が異世界に転生して最強の剣士を育てる話

三段腹トビウオ

第1話 笑われ者の剣道部

教員になった時には、熱血!だとか、青春!だとかをもう一度味わえると思い心が震えたものだが、そうでないとすぐ分かった。


夏休みの武道場、それはまるでサウナの如き暑さ。防具を着けた我が愛しの教え子達は汗だくになって稽古を行っている。


―――そう思っていたのだが


会議から戻ってくると太鼓の横にある扇風機にみんな集まってポカリを飲んでいるではないか!!


私は怒るのが好きでは無いので注意だけして練習を再開させた。


「反町先生、このままでは高総体、期待出来ませんよ」


パイプ椅子を熱そうに持ちながら副顧問の平良先生がそう喋りかけてきた。


「分かっている、私は剣道部を受け持って長いけれで彼らは良くやってる方だ」


平良先生は一瞬困惑した顔をして、彼らの方を見つめ、ゆっくりと太鼓に近寄り二回ポンと叩いた。


「集合!これからオレが稽古を指導する、反町先生は教える気があまり無いようだ」


私は自分の非力さを痛感した、平良先生が生徒たちにいつも強く言えるのはその若さからなのだろう。


返事も指導したはずなのだが、部長だけが大きな声で「はい!」と応えた。


私はパイプ椅子から腰をはずし武道場を出た。


鮮やかな緑色をしていたスリッパも、いまや淡く暗い緑に変わっている。


少し離れたところから武道場を眺め、軽自動車に乗り込んだ。


ため息をつきながら帰路につく、もう何十回、何百回と見た景色を今日も見ていた。


―――――その時!!


ボールを取りに子供が道路に飛び出しているのを確認した!

ブレーキを踏んでも間に合わないことを悟りハンドルを思い切り右へと回した!


一瞬の静寂の後、延々と鳴り響くクラクションの音と、遅れて開いたエアバッグの音が聞こえた。



―この人でいいわね、妥協も大事よ!―




「彼が、そうなの…か…?」


頭の中で今も鳴るクラクションの音をかき消したのは、唸るような人の声だった。


「せっかく『異世界』から連れてきてやったのになによその反応!」


自分の顔の上を飛び回る光る虫のようなものがそう言っている。


私は恐る恐る目を開け、彼らを見つめた。


「それは申し訳ない、けれど本当に異世界からつれてくるなんて…ってわぁ!?」


顔立ちの整った青年が私に気づいた様だ。

これは夢なのだろうか…


「あら起きたの、私があなたをここへ連れてきたのよ、少々手荒な真似をしてごめんなさいね」


この虫の様に小さく光っているのはあれか…妖精というやつか。


「ほらティンクス、この人事情を説明してやれよ」


「仕方ないわね、まずは自己紹介から私はティンクス、こっちのだらしない男は私の主のラドだわ」


私は少し起き上がって軽く会釈をした。


「元々私はラドのお父さんの妖精だったんだけれど、お父さんが都に行ってからはラドの使いをしてるの」


「そんなことより、この人が何故ここにいるのかを教えてやってよ」


「分かってるって、簡単に言うとあなたは異世界に転生したの、というか私がさせたの」


自分が異世界へ行くなんて、そもそも異世界があるなんて、そんな衝撃をモロに受けつつも話を聞き続けた。


「なにもかもラドのせいなの、ごめんなさい、ラドが最強の剣士になりたいだなんて言うから師匠を探してたの…」


私はようやく口を開いた


「ということは君があの子供を?」


そう言うと妖精は高速に首を振って


「いや、違うの、たまたま師匠候補を探している途中にあなたが車の中で倒れているのを見つけて」


「そうなんです、本当に申し訳ないけれど、ティンクスの言う通り本当にたまたまなんです」


「そうか、それならまた元の場所へ転生させてくれないかな?」


妖精はバツが悪そうに言った


「転生術は、妖精代々に伝わる魔法なんだけど、一回限りなの、そして一度転生した人はもう一度転生する事が出来ないの!」


私は眉をひそめ、彼らに疑問を投げかけた


「なぜ、異世界で師匠なんか探すんだ、君らの世界の方がよっぽど剣術に理解のある人物がいるだろう」


私がそう言うと彼らは少しはにかんだ。


「異世界からあなたを転生させる時に、スキルを少し見ちゃったんだけど…」


妖精はそういいながら私の周りを回っている。


青年は黄色の目を光らせ、私にこう頼んだ


「この世界であなたよりスキルが高い強い剣士はいないんです!是非、弟子にしてください!」













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剣道部顧問が異世界に転生して最強の剣士を育てる話 三段腹トビウオ @hundosiguigui

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