第46話 戦況は不況


 アンデッドドラゴンの、腐ったように黒ずんだ鉤爪が向かってくる。

 ゆっくりした動作に見えるが、それは多分図体が大きすぎることによる錯覚だ。


 伸ばした包帯で体を引っ張り、なんとか範囲外への離脱を試みる。


 包帯に粘着性など皆無なので、暗闇の中括り付けられる場所を模索しなくてはならない。

 【META】によって極限まで無駄は削がれているものの、攻撃を逃れられるかは一か八かだ。



 遂にはようやく直撃は回避できた。

 …が、そこに待っているのは斬撃の余波。


 (ぐぅっ…!)


 切り裂くような空気の圧が背中を襲う。

 痛みはないが、ダメージはある。

 ゴロゴロと身体を樽のように転がされてしまった。


 倒れ伏していたアンデッドどもも、風圧で再び宙を舞う。

 その間も果敢に俺へと攻撃せんとするので、非常に邪魔くさい。


 (まだ残党が残ってるな……。まずはコイツらを処理した方がいいのか?)


 しかし、そんな余裕というものはない。

 ドラゴンの攻撃に逃れるのがようやくである以上、雑魚の掃討など手一杯だ。


 リッチによるバフ?は切れているのかわからないが、そうだとしてもアイツらはタフだし、構ってる時間がない。


 (…なら、まだ床で寝てる奴らとかが本格参戦してくる前に、どうにか決着しなければ)


 逃げるにしても倒すにしても、最低限の敵の数のうちに決める。

 それが現状最適な策だろう。


 ……その決着をする隙があるかどうかはわからないが。


 

 「カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」


 ドラゴンが吠える。

 いや、開口して……息を吐いた?


 緑色の瘴気がそこからモヤモヤと出ていく。


 濃度が高く、覆われたその先が見えないくらいである。

 勢いはゆっくりとしているが、じわじわとこちらへろ迫っている。


 (なんだあれは…、ブレス?)


 竜といったらブレス…ではあるが、イメージでは炎とか冷気とかが普通だ。


 あのブレスがどんな効果なのか全くわからないし、息が吹きかかった場所も濃すぎてよく見えないし…。


 だが、ろくでもないことは確かなのだろう。


 アンデッドたちはそれを察知してかせずか、心なし離れていっているような気がする。


 (アンデッドも効く…となると病魔とか毒とかそういう類ではないのか…?)


 見た感じでは毒系な雰囲気であるが、アンデッド達の様子を見る限りそうではなさそうだ。

 いや、その耐性を上回るほどの効果である可能性もあるが。



 ようやく拭きかかった部分のモヤが晴れようとしている。

 包帯で退避しながらそれをじっと観察してみると……。

 

 そこには、固まったように動かなくなったアンデッドの姿が。


 いや、もはやではないのだろう。

 本当に動きを停止しているのだ。


 そしてそれは、ただ氷漬けにしたなどチャチに感じられるほどの……。

 と言っても過言ではないような。


 (ってことは……、!?)


 彫像のように体を石にしたアンデッドを見て、ブレスの効果がわかった。

 ありゃとんでもないものだ。


 呪いとかではなく、ただ単純に石になってしまっているのだろう。

 喰らったら即ゲームオーバーな案件だ。


 (マジかよ…、どんなクソゲーだッ)


 ますます逃げに徹しなければまずくなった。

 

 どうする、攻めに転じなければ勝てない。

 だが、奴への有効打は皆無に等しい。


 【呪斬】は吹き消されるし、【呪弾】も同様。

 【氷弾】【氷獄】も望み薄だ。肉弾戦はもってのほかだし…。


 勝ち筋を見出すにはあまりに厳しい。


 「あ゛あ゛あ゛」


 そして、雑魚戦もそれを加速させている。

 呻き声をあげるゾンビが、愚直な突進を見せてきた。


 (【呪斬】【呪斬】)


 続け様に放つ呪いの斬撃。

 まるで十文字になってゾンビに襲いかかったそれは、奴の腹に直撃する。


 ぶしゅっと腐った血液が噴き出すが、それでも奴は倒れない。

 薄皮一枚でまだ全身を保っている。


 (くそっ、やっぱりタフだっ!【呪斬】)


 三発目でようやく死体の山に沈むが、三発かかってしまった。

 1体にこれではMPなんてすぐ尽きる。ただでさえもう限りが見えているのに。


 

 心の中に変な汗が滴る。


 やはり、戦況は相当な不利であることを突きつけられていた。

 


 

 


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転生したら死んでました!?〜底辺スタートですが、スキルと進化で世界ランクを駆け上ります〜 オーミヤビ @O-miyabi

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