第45話 屍竜相対
「カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
目の前の屍竜による咆哮が、世界を唸らせる。
空気がビリビリと痺れ、体がセメントで塗り固められたかのようにガッチリ動かなくなる。
(ぐっ、う、まず、い)
衝撃にそのまま意識を持っていかれそうになるが、すんでのところで踏ん張る。
しかし硬直した体は咆哮に吹き飛ばされ、壁に激突した。
受け身なんて取れるはずもなく。
壁と衝突、地面へ激突…で全身がズタズタになりそうだ。
(な、なんとか気をしっかり……。痛みは感じない。大丈夫、動ける)
ジンジンと明滅する意識を奮い立たせ、同時に体もフラフラと起こす。
強大な存在感を放つアンデッドのドラゴンを、再び視界に収めた。
爛々と光る、眼のような緑の光。
それがぎょろぎょろとこの空間を見回している。
足元には、八つ裂きになったリッチ。そして有象無象のアンデッド。
もはや原型はなく、ただ血飛沫が撒き散らかされているかのようにさえ感じられるほどだ。
(あれが…、アンデッドドラゴン……)
彼女の記憶が、今一度鮮明に呼び起こされる。
その時もどうやら、こんなダイナミックな登場をしたらしい。
壁ごと彼女の仲間達を破壊し、末恐ろしい咆哮をあげていた。
骨が剥き出しの手であらゆるものを踏み潰し、牙はどんな防御手段も切り裂いていく。
もはや蹂躙劇とでもいうべき光景が、記憶に残されていた。
(やれんのか……、俺)
戦況は厳しいどころではない。
ただでさえ万全でもヤツに劣っているのは必至なのに、リッチとの戦闘で魔力体力ともに消耗してしまっている。
俺が生き残れる可能性は限りなく低い状況だろう。
===============
生命力:133/563
魔力 :317/993
===============
一応確認してみるものの、やはりそうだ。
次に攻撃を喰らえば死亡。
あと【氷獄】を1、2回、もしくはその他の魔法を十何回か使えば尽きてしまう程度の残量。
(でも、逃げるというのも……)
絶対に逃げ切れない自信がある。
そもそもあんな巨体では、少し離れた程度では一歩足を踏み出されて潰されるのがオチだ。
吹き飛ばされ、踏み潰されによる死屍累々の状況下ではなおさらのことである。
ならばもう、腹を括るしかない。
勝算は無に等しい。
相手は完全なる格上であり、勝つ要素など微塵も見えない。
たぶん死ぬかもしれない。
いや、もう死ぬだろう。
俺は身の程知らずの頼みを聞いて、ノコノコやってきて死ぬ。
八つ裂きにされるのか、トマトみたいに潰されるのか、はたまた別の何かで殺されるのか……、どれにせよ俺は屍竜に殺される。
……だが、タダで死んではいられない。
火に飛び込む虫の如く危機に直面している状況ではあるが、それでも俺には、夢の中の女性の頼みを叶えるという役回りがある。
涙ながらに託されたこのペンダントと、思い。
それをゆめゆめ無碍になんてできるはずがない。
だから……。
死んでも、彼女の頼みを遂行するのだ。
──操られた者たちを、全員解放する。
──このペンダントを、彼女の想い人に届ける。
このふたつのことを成し遂げるために。
……じゃあ、どうやって?
前者は、今この場にいるアンデッドを全員滅せれば達成できるかもしれない。
だがそれには膨大な労力と時間がかかる。
後者は……、現状では不可能に近い。
そもそも相手がどんな者なのかすらわからない段階。
こんな辺鄙な場所にいるはずもないだろうし。
ちょっと考えてみると、そう簡単には達成できないことだけしかない。
少なくとも、「今」に成し遂げるには。
じゃあ、もっと色々準備とかしなきゃな。
そのためには時間が必要だ。
なら、こんなところで死んではいられないな?
(回りくどいな。でも俺ってのはそういう奴なんだ。周りくどく意義を求めて、そしてそれに対して貪欲に目指す……、自分でもめんどくさいと思うけどな)
何かと理由をつける癖は……あった、かな。
具体的な思い出なんかは、別に覚えていないんだけど。
(まぁ…、いい。いくぞ)
覚悟を決めた。
あとは目的のため頑張るだけ。
精一杯の抵抗を、奴に見せてやるのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます