24 鳳凰暦2020年5月13日 水曜日午後 国立ヨモツ大学附属高等学校・中学校内ダンジョンアタッカーズギルド出張所


 私――宝蔵院麗子は、釘崎さんの報告を聞いていた。

 釘崎さんは昼休みにやってきたアレと話し合い、退学者が出ないようにうまく説得したらしい。どうやらなんとかなったようだ。任せて正解だった。丸投げして正解だった。本当に助かった。聞けば聞くほど、もうアレに関わりたくないと思った。

 私がアレと話していた場合、アレが説得に応じるとは思えなかったというのも、ある。釘崎さんには感謝したい。


「……という感じで、大量の退学者は防げたとは思いますけど」

「その代わり、利子の分は自業自得ってこと、か。ありがとう、釘崎さん。よく頑張ったわね」

「先輩ぃ。鈴木くんの相手、代わって下さいよぉ。確かに、いろいろとおもしろい話は手に入りますけど、結構、メンタルに直撃するんですよぅ……」

「ダメよ。私は彼に嫌われてるから。釘崎さんは慕われてるでしょ、先輩として」

「あれって、慕われてるんですかねぇ……そもそも、先輩だって、鈴木くんにとってはこの学校の先輩じゃないですか……しかも、あの陵竜也と同学年なんだし……」


 釘崎さんは首を傾げた。


「釘崎さんは間違いなく慕われてる。そうでないと説得なんて無理だから、絶対。私は、最初の出会いがよくなかったから、嫌われてるし」


 ……だから、アレの担当はずっと釘崎さんで決まりね。


「別に、鈴木くんは先輩のことを嫌ったりとか、してないと思いますよ?」

「いえ。確実に、嫌われてるから」

「まあ、それはともかくとして……それで7校時に、1年1組で今回のギルドクエストとギルドの不正監視について説明しなきゃいけないんですけど、そこは先輩が……」

「もちろん! 釘崎さんにお願いするわ!」

「うぇっ。そんな……」

「任された案件をきっちり果たして、そうして新人は成長するの。だから頑張って。彼の担当は釘崎さん。そう、彼となら、いろいろな経験が積めるわ、きっと」


 そう、これはきっと新人教育の貴重な機会のはず。釘崎さんならこれを乗り越えて成長できるに違いない。


「……それって、必要な経験なんですかねぇ?」

「あ、私は学校の方に連絡入れなきゃ。もう戻っていいわよ」

「はぃ……あ、先輩。その、鈴木くんへの依頼報酬の前金って、本当に1%で大丈夫ですかね? 0.1%くらいの方が安全確実なのでは?」

「彼の平日の放課後5日間の収入を1000万円で想定してその2倍で2000万円、武闘会予選3日分として1200万円。その1%で12万円を20人以上で割るんだから一人6000円以下でしょう? 1組だし、ゴブリンの魔石60個なら退学になることはないわよ。そもそも1000万円って想定がかなり大きく見積もってるんだし」

「そうですか。そうですよね。わかりました……」


 そうつぶやいて去っていく釘崎さんの背中を見送って、私は佐原先生に電話をかけた。これでバスタードソードの時の借りを返せる。私はそんな風に考えたのだった。私は釘崎さんに命じただけなのだが。





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