23 鳳凰暦2020年5月13日 水曜日昼休み 国立ヨモツ大学附属高等学校・中学校内ダンジョンアタッカーズギルド出張所


 僕はギルドの先輩お姉さまに、僕の武闘会の出場に賛成した人たちに名前を書かせるギルドクエスト依頼書について、相談していた。もう既に、保護者承諾書と契約内容確認書については24人、全員分を回収済みだ。


「……ええっと、鈴木くん。これなんだけどね、あー、なんて言えば……」


 ……先輩お姉さまがどうも困ってるらしい。たぶん、困らせてるのは僕だけど。


 確かに、特殊なギルドクエストではある。普通は有り得ないものだ。学校行事である学校祭のイベントのひとつ、武闘会への出場をクラスメイトに依頼する生徒は、一般的に考えると普通はいないだろうと思う。


 でも、指名依頼としての形式は成立している。形式としては問題がない。ただ、その依頼内容が常識的ではないというだけで。あ、依頼報酬もかなり特殊だったか。


「やっぱり報酬の指定の仕方が特殊ですかね?」

「報酬に関する規定は、割と幅広いから。例えば、ドロップアイテムでAだったらB、CだったらDみたいな条件指定もできるもの。魔塔ダンジョンの攻略なんかだと、スポンサーと攻略クランとの間で、ものっすごく細かく決めるらしいし。それと比べたら、期間指定でその期間の収入を依頼者で均等割りして報酬として支払うっていうのは、ありよりのあり、だと思う。その収入を確定させるのに、自分に対してギルドに不正監視依頼までするのは普通ではないとは思うけど」

「じゃあ、先輩はどこで困ってるんですか?」

「いや、そのー。これって、クラスメイトが依頼者で、鈴木くんが受注者になるでしょう? その結果、依頼者となった生徒がダンジョンカードで報酬を支払う、と?」

「そうですね」

「……鈴木くんの収入だと、20人以上でワリカンしたとしても、支払えない可能性が高いよね?」

「まあ、そうですね」

「え? それ、わかっててやってるの?」

「そうですけど、何か?」

「だって、この子たち、支払えなかったら、学校祭のある6月の月末には退学になるんだよ?」

「いい人生勉強になりますね」

「え、その程度の感覚? クラスメイトが半分以上いなくなる異常事態だと思うけど?」

「……別に僕は困りませんけど?」

「メンタルが最強過ぎる……これ、どうやって説得すれば……」

「説得?」

「いや、こっちのこと。ええっと、つまり、鈴木くんとしては、この子たちが退学になることは特に問題ではない感じ?」

「全然」

「先輩としてアドバイスするなら、お姉さんは、これ、すっごく大問題だと思うんだけど?」

「この学校の方針にケチをつけると?」

「いや、確かにこの学校はそういう方針ではあるけど……」

「ですよね」

「でも、鈴木くんみたいな、このパターンは学校側も想定してないと思う。もちろんギルドも」

「それは甘い想定でしたね」

「ほぼほぼ他人事だ!」

「まあ、同じクラスで息を吸ってるだけの他人ですし。なんなら、僕を無理矢理にでも武闘会に出そうとした敵なので」

「敵なんだ!」

「まあ、結果としていい金づるになりましたけど」

「金づる……」

「実にいいカモでした」

「いいカモ……カモ? あ!」


 先輩お姉さまの表情が急に明るくなった。なんで?


「いい、鈴木くん。よく考えて」

「よく考えて今があります」

「いいから、よく聞いて。今回のカモさんたちから、いくらかお金を巻き上げたとしましょう」

「全力で最大値にするつもりですから、いくらかで済ますつもりは微塵もないですね」

「……まあ、それはそれとして、結果として、それで大量の退学者が誕生しました」

「するでしょうね。言いたくないけど、小鬼ダンでは絶対に無理だし」

「だよねー……。で、まあ、その結果、たくさんの退学者が出たことは多くの人に知られてしまいます。栄光の1組から半数以上が消えるんだから当然そうなります。絶対そうなります。気づかれないはずがありません。大ニュースで大問題になるでしょう」

「隠しようがないですから。あ、教室が広くなるのはありがたいな。あいつらには酸素がもったいないし」

「……酸素すら与えたくないの? ……でも、この話が広まると、似たようなことを仕出かして、新たな鈴木くんのカモになってお金を貢いでくれるかもしれない、カモになる可能性を持つカモの卵たちも、鈴木くんにカモられないようにしようと、学習してしまいます。だって、退学なんて怖いし」

「……言われてみれば、その可能性は考慮してなかった。金さえ払えば、こいつらなんかどうなってもいいくらいにしか思ってなかったですね……退学になったら保護者が弁済するように承諾書には明記しといたし、今回の件は完璧だと思ってました」

「どうなってもよかったんだ……まあ、それにね、この学校にはほら、おれは強い、みたいな、自信過剰な人は結構多いから、新たなカモは本当にたくさんいると思うんだ、お姉さんは。それなのに、退学がいっぱいになったら、この先、そういうカモの群れから鈴木くんは警戒対象になって、今回みたいな濡れ手に粟って感じにはもうできないよ? きっと?」

「……確かに、大量の退学者はインパクトがあり過ぎるかもしれないな……未来の顧客を逃すのは大きな機会損失だし……2、3人が退学になるように操作できるか? あー、どうだろ? 金額が少なくなるようにするのは意味がないし。承諾書が遅れた連中だけをハメるか……? あ、いや。そもそもここの生徒から巻き上げなくても……」

「もうそっち方向で考えるのやめようよ、ね? お姉さんとしては、報酬一部を先払いさせて、報酬の残り全体の支払期間を卒業後に設定してしまえば、退学させずに、しっかりと稼がせてそこから毟り取れると思うのです。どう?」

「ああ、なるほど! 法定上限ぐらいで利子も設定しておけば、卒業までの期間で1円でも多く毟れますね! それはいい考えです。確かに、退学にして変な騒ぎで僕が注目されたり、恨まれたりするよりも、利子も加えて収入を1円でも多くする方が正しい……あ、僕の収入を1日分に割る時も、四捨五入ではなく切り上げにして1円でも増やすべきだな。そこも忘れないようにしないと……」

「……利子……利子を増やす……。いや、いきなり退学よりはマシだよねぇ……これはもう、利子くらいはあきらめてもらっていいかな……?」

「そうですね、退学については許してやるんだから、利子くらいは当然ですよ、当然。ありがとうございます、先輩! これで収入がさらに増えます! やっぱり金貸しは強いですよね!」

「あ、あははー、良かったね、鈴木くん」


 そう言った先輩お姉さまの顔は、結構引きつっていたのだった。


 僕としては、退学させないことで収入が増えるのなら、何も問題がない。今、お金に困ってる訳でもないしな。


 それにしても、卒業するタイミングでかなりの資産を手に入れられるな、これで。

 在学中に、世界のどのダンジョンを攻略するか、しっかり見極めよう。たぶん、渡航費は余裕で手に入るはず。くくく……早く来い、ダンジョンズワールド!





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