19 鳳凰暦2020年5月11日 月曜日放課後 小鬼ダンジョン


 今日は、わたし――岡山広子は、小鬼ダンジョンの行き止まりにいます。本来ならテスト週間のダン禁で入れないはずのダンジョンですが、特別に入れるのは、スキル講習だからなのです。


 一緒に講習を受けているのは矢崎さんです。小鬼ダンジョン内の別の場所で鈴木さんはライトヒールの講習を受けています。あれほどサークルランプが重要になるとおっしゃっていましたが、鈴木さんはライトヒールです。理由は知っていますから、納得しています。それでも一緒に講習が受けたかったと思ってしまうのはどうしようもありません。


「簡易魔法文字は覚えましたか? では、次は『念呪』です」


 この行き止まりは講師の先生のお弟子さんが見張っていて、他の人が近づけないようになっています。


「『念呪』とは、心で唱える呪文です。もちろん口に出してもスキルは使えますが、スキルを盗まれないよう、奪われないよう、心で念じるのが普通です。スキルを盗まれたり、奪われたり、または誰かに教えたりすると、二度とそのスキルは使えなくなります。そして、先程の魔法契約書が反応して変色します。そうなるとギルドからダンジョンカード利用禁止処分が下されますので、本当に気をつけましょう」


 ……ガイダンスブックに基本的なことは書いてありますから知っていましたが、鈴木さんがスキル発動準備中に話しかけても返事がないのは当然でした。それと、スキルを奪われた場合の処分が重いです。ダンジョンに一生、入れなくなります。

 ジョブスキルについては、この限りではありません。『念呪』も必要なく、『起句』のみで発動するそうです。


「では、足で……右足でも左足でも、どちらでも構いません。足で光の簡易魔法文字を地面に書きながら、『光よ、我を照らせ』と唱えます。書いている間に唱えて下さい。そして、最後に『サークルランプ』と起句を声に出します」


 わたしは初めてのスキル使用に挑戦します。足で魔法文字を書くのは難しいです。


 ……光よ、我を照らせ。


「サークルランプ」


 あれ? ……いえ、わたしの影がすごく小さくなりました。

 小鬼ダンはかなり明るいダンジョンなので判別が難しいですが、確かに周囲の明るさが増しています。

 それにしても、思った以上に、簡単にスキルが使えました。ただし、足で魔法文字を書くというのはなかなか難しかったです。


「二人とも発動したようですね。それでは、これで講習を終わります。それにしても、今年は珍しいですね。毎年『サークルランプ』を希望する生徒は一人いればいい方で、ゼロが普通ですのに。この前の講習も二人でしたし」


 ……それはあぶみさんと紅葉さんですね。


 鈴木さんのアドバイスにより、二人もスキル講習は『サークルランプ』を選択して覚えています。高千穂さんや伊勢さんは附属中の先輩から『サークルランプ』は役に立たないと言われていたようですし、その言葉に従って中学時代に『ライトヒール』を覚えたそうです。


 ……それでも、一人くらいは、鈴木さんのような考え方をする人もいるのですね。


 講師の先生の言葉に、わたしはそんなことを思いました。





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