16 鳳凰暦2020年5月11日 月曜日朝 国立ヨモツ大学附属高等学校1年1組
朝の教室で静かに本を読んでいた僕の目の前から、いきなり本が消えた。
「おい、鈴木、どういうことだ?」
僕の前には僕の本を強奪した現行犯がいた。なんだか僕に向かって凄んでるけど、僕には凄まれるようなことは身に覚えがない。
「……いきなり他人の本を奪い取る行為は、窃盗、もしくは強盗にあたるはずだけど、その脅しみたいな口調ならどっちかといえば強盗なのかな? 窃盗なら10年以下の懲役か50万円以下の罰金だけど、強盗は5年以上の懲役だったな、確か。罰金では済まされないからな? 懲役でぶち込まれるために、そんなに僕に訴えられたいのなら、僕としては遠慮するつもりはないけど? 物証は今、君の手の中に本があるし、そこに指紋も確実に残る。学校に申請すればWEB授業用の後ろのカメラで撮影してる動画も証拠として用意できる。正式に警察に刑事告訴しようか?」
顔色を変え、慌てて僕の机に本を置く強盗犯。たぶん、クラスメイトだ。先週のLHRで僕を武闘会に推薦してた人のような気もする。ええと……誰だったか……。
「……おま、そんな……いや、本を取り上げたのは悪ぃ。返すからそれで勘弁してくれ。でも、おまえがいくら話しかけても無視するからだな、他に方法がなかったんだよ。いや、そんなことより、昨日、親から寮に電話があったんだが、承諾書って何の話だ?」
「ああ、ごめん。本に集中してたから。そういえば、まだ返送されてない人が4人いたな、確か。そのことについては今日の7校時のLHRで全員にまとめて説明するから。いちいち一人ひとりに説明してたらキリがないし、効率が悪い。あ、他の人にもそう言っといて」
僕はそう伝えると、再び本を手にして読み始めた。
僕が本に集中できるまで、「4人?」とか、「返送?」とか、「おれがなんで連絡?」とか、雑音が聞こえてきたけど、そのうち静かになっていった。
しばらく本の世界に没頭していたら、また、僕の目の前から本が消えた。
「朝のHRだ、鈴木。読書は一時停止しろ」
先生はぽんと僕の机の上に奪い取った本を置いた。さすがに先生が朝のHRの時間を知らせるためにやったことを窃盗だとか、強盗だとか、訴えるつもりはない。それよりも……。
「あ、先生、これを学年主任の先生に渡しといて下さい」
僕はそう言って、交渉用の『鈴木メソッド』が入った封筒を先生に差し出した。宛名は『ヨモツ大学附属高等学校ダンジョン科第1学年 学年主任様』にしておいた。
「佐原先生に? ……おまえ、おれをパシリか何かと勘違いしてないか?」
「先生は担任の先生です。パシリじゃないですね。そんな訳ないです」
「いや、どう考えても……まあ、いい。渡しとく……」
僕から学年主任宛ての封筒を受け取った先生は、「なんであいつは座ったままでおれが学年職員室の往復なんだよ? おかしいだろ、どう考えても……」とかなんとかぶつぶつとつぶやいてたけど、それは僕が生徒で教室にいるのが普通で、先生が先生で教室と職員室を往復するのが普通なんだから当然のことだと思う。
先生をパシリに使おうなんて、僕はちょっとしか思ってないな。
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