13 鳳凰暦2020年5月9日 土曜日お昼頃 図書館前の芝生広場


「ヒロちゃん、この玉子焼き、すっごく美味しいね!」

「鈴木さんのお義母さまに、教えて頂いたのです。わたしも、とても好きな味です。おこげがいい雰囲気なのは、お義母さまが作った分で、ちょっとおこげが多くなっているのが、わたしが作った分になります。明日はもっと頑張りますね」


 みんなで岡山さんが作ってきてくれたお弁当のお重をつまみつつ、酒田さんの嬉しそうな声とそれに答える岡山さんの言葉を聞きながら、あたし――伊勢五十鈴は、ちらりと親友の美舞を見た。大きな反応はないけど、眉がピクピクと動いてるから、美舞。


 ……完全に『お義母さま』に聞こえるんだよなぁ。この前のすきやきも、さっさと鈴木くんの隣に座ったし、岡山さんは、わたしが正妻ですって感じにブレがないというか、何というか。特に、普段は押しが強いってこともないのに、鈴木くんが絡むとそこに迷いがなくなるって、これが、恋は盲目ってヤツなのかな?


 美舞も美人系なんだから、真っ向勝負でも負けないと思うけどなぁ。


 これ、鈴木くんが、完全に岡山さんになびいてる感じでもないのが救いかも。頑張れ、美舞。まだ間に合うから。


「……これが噂の爆弾おにぎりなんだ。思ってたほど、大きくなかったかな」


 宮島さんは爆弾おにぎりに夢中。ぱくりと可愛く一口。


「……もぐもぐ……あ、なんか、具がいい感じ。天かすと天つゆかな? あとはこんぶ? のりの佃煮もある? 明太子の味もするかな」

「モミちゃん、それ女の子用のサイズなんだって。鈴木先生の分はいつもは、もっと大きいらしいね」

「あ、そうなんだ。でもこれ、ほんとに美味しい」

「うん。美味」


 矢崎さんも満足そうだ。さっきはテストの予想問題で鈴木くんに褒められてた。あたしと違って、さすがは1組。デキがいい。あたし、目標点数に届かず、プリントが追加されました……。


 でも、附中の時とは違う、この自由な感じ。すごくいい。中学の寮は基本、集団行動的だったし。市立図書館なんて初めて来た。中学から考えたら、もう平坂に住んで4年目なのに。


 中学の時は、駅前でちょっと遊んだ以外は、何回か、外泊許可でモモの家に泊まったくらいか……すっごい家だったなぁ……。


「じゃあ、食べ終わったら午後も頑張ろうか。特に五十鈴。だから気を抜くなって言ったのに」

「あー、ごめん。頑張るから」

「鈴木先生、今日の図書館の予定は3時まででしたね? その後は?」

「うん? DJバーガーでおやつ」

「……ハンバーガーは女子にはおやつではないです、鈴木先生」

「あ、でも賛成かな。DJバーガーは行ってみたい」

「モミちゃんは食い意地が……」

「それ、言わないで、あみちゃん」

「でも、なんでDJバーガーなんだろうね? ダンジョンならDGじゃない?」

「あれは、ダンジョン、ジャンキー、バーガー」

「え、エミちゃん? そうなんだ」

「別名、鈴木、バーガー」

「あ、確かに。間違いなく鈴木先生はダンジョンジャンキーだね」

「うん。ダンジョン、馬鹿」

「あははー、そーだねー」


 あははと笑う酒田さんたちがそこにいる。4月はあんなに苦しかったのが嘘みたいだ。


 とにかく、あたしたちは楽しんでる。それでいいか。お金にも困らなくなったし。


 ……この後、図書館でネット接続されたパソコンが使えると気づいた宮島さんと、二人でこの前の梧桐ってすきやき屋さんを調べたら、一番安いやつでもすきやき1人前1万8千円だとわかって、それで二人とも叫びそうになってお互いにお互いの口を押さえて目を見開いてた。


 あたしたち、なかなかいいペアになってきたと思う。





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