12 鳳凰暦2020年5月9日 土曜日午前 平坂市内各所
テスト週間の土日は、しっかり勉強するべき日です。もちろん私――平坂桃花は、勉強を疎かにはしません。
ただ、集中力を高めて学習効率を上げるためには、息抜きも重要なのです。
ですから、早朝、6時半からの勉強を一度切り上げて、7時に一度、散歩をします。偶然、彼に出会うかもしれません。彼もテスト週間ですから。彼も息抜きで家の外に出ることもあるかもしれませんから。
……残念ながら偶然はなかなか訪れないようです。
それから家に戻って、千代さんに作って頂いた朝食を頂き、再び勉強します。
そして、8時。集中力を保ち続けるのは大変ですから、息抜きで散歩に出かけます。もちろん、偶然、彼と出会ってしまう可能性は否定しません。
……またしても偶然は訪れませんでした。できればその偶然によって、この前のLHRでの私の失態を謝罪したいのですけれど。あの場では、結局は彼が武闘会の出場を引き受ける形で終わりました。いろいろと、想定外の部分はありましたけれど。
まさか、武闘会の出場に対価を要求するとは思いませんでした。あの場は、冴羽先生も言っていたように、大きなアピールの場です。彼の強さなら、大手クランや大企業も必ず手を伸ばすでしょう。
家に戻って、勉強を再開します。今回はダンジョン関係の基礎科目ばかりですから、それほど難しくはありません。
そして、9時。息抜きの散歩の時間となりました。もちろん、偶然が起きれば彼と出会い、LHRについて謝罪して、もし、可能であるのなら、テスト週間の間、一緒に登校できるように約束をしてみようと考えて――。
彼です! 偶然が突然やってきました! あ……また、あの子が一緒ではありませんか……。まさかテスト週間も外泊許可で?
しかも、義妹が一緒ではなく、二人で歩いています。おかしいです。義妹はうまく隠れているのでしょうか……それと、この方向は学校ではなく、駅前ではありませんか……これではまるでデートのようです。あの子は彼を見上げるようにしつつ頬を赤らめておりますし……。テスト週間だというのに、いったいどういうことなのでしょう……?
ただ、彼はそのような姿は見せておりませんし、二人は適切な距離であり、腕を組むなどは当然として、手をつなぐことすらなく、ただ並んで歩いていると、それだけです。そこはしっかりと確認しております。
まさか、DJバーガーや、ファッションビルの方へ……いえ、通り過ぎました。では、どちらに向かって……あ、あそこは……。
行き先は図書館。平坂市立図書館でした。彼のテスト週間に相応しい目的地です。一緒にいるのがあの子でなければ、ですけれど。
あ、誰かとあの子が手を振り合って……あ、高千穂がいますね? それに伊勢もいます。ああ、あの時、朝のダンジョンで会った……矢崎もいますね?
そうでした。彼は佐原先生に頼まれて、矢崎の育成を引き受けたのでした。育成? テスト週間ですね? ダンジョンには入れ……まさか、一緒にテスト勉強などという、最高の観察の機会を矢崎は佐原先生の斡旋によって手に入れていたというのですか?
……間違いありません。勉強を始めました。本棚の影から偶然見えているだけですけれど、間違いありません。
……あ、この本、彼が言っていた本では? あ、ダンジョン関係の本がこんなにもたくさんあるとは……附中に進学してからは市立図書館に行く機会はありませんでした。ヨモ大附属の図書館はとても大きく、充実しているので、必要がなかったのです。これからはいろいろな偶然の可能性も考え、たまには散歩コースとして足を伸ばさなければなりません。
彼とあの子は、どうやら教える側に……んん? あの子は4組の……しかも補欠入学のはずですけれど……。
あ、矢崎がどうも、彼に褒められているようです。矢崎、笑顔ですね。教室では見せない姿です。
それと、どうやら独自の教材を利用しているような……参考書でも教科書でも、ガイダンスブックでもなく、プリントです。プリントを終えてから教科書で確認しているようです。
そもそもダンジョン科のある高校は全国に3つしかないため、ダンジョン関係の教科は大学が発行している参考書はあっても、テスト勉強のための問題集などは存在しないのです。需要が少なすぎます。
伊勢は、少し彼に叱られているようです。彼が叱る姿というのは、大変珍しい気がします。あ、追加でプリントを渡されています。彼からの直接の手渡しです。伊勢……まさか、わざと叱られているのでは?
……プリントに取り組む時間は、とても集中しています。30分間くらいでしょうか?
やり終えたら彼とあの子が確認……というか、どうも、採点のような感じがします。流石にこれ以上は近づけませんから、はっきりとはわかりませんけれど。
とにかく、プリントを約30分、教科書やガイダンスブックの確認、プリント30分の繰り返しです。そういう勉強法なのでしょう。
私たちのクランでも、このようなテスト勉強を取り入れるというのは……いえ。ダメです。どう考えてもメンバー全員で設楽を教えている姿が目に浮かびます。設楽以外の皆さんは、ちゃんと勉強ができていますから。
あ! 明日は、私もここへ勉強道具を持ってくるというのは、素晴らしいアイデアではないでしょうか?
……そんなことを考えていると、みなさん、一緒に出て行ってしまいました。
ふと、時計を見ると、12時半ではありませんか! いつの間に……?
帰ってお昼を食べて、勉強しなければなりません。気分転換の散歩が3時間だと千代さんが誘拐か何かだと勘違いしてしまうかもしれません。急ぎましょう……。
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