6 鳳凰暦2020年5月8日 金曜日7校時 国立ヨモツ大学附属高等学校1年1組


 何か言いたそうにしてる男子はいた。しかし、意外とすんなり決まる。15対24だから、差が大きくて何か言えないのだろう。


 LHRなどというものは、基本、空気になるに限る。私――矢崎絵美は、そういう考え。それでも多数決では自分の意思を出す。私の意思は、鈴木に賛成。だから、鈴木が立ったモザイクアートとトリックアート。


 モザイクアートは中学校で経験済み。作業中は集中できるし、話さなくていい。最高。それでいて、出来上りは意外と達成感もある。作業中は全く分からなかった全体像が浮き上がってきた瞬間は思わず「わぁ」と声が出たの、覚えてる。


 トリックアートは未経験。少しだけ楽しみ。

 ただ、撮影会でお客をもてなすのはちょっと困る。苦手。後で、平坂にお願いしよう。鈴木と一緒で、と。


「じゃ、次は、武闘会の出場者を決めるねー」


 1組なら、やりたがる人、本当はいるはず。しかし、今回は……。


「誰か出たい人は手を挙げてねー」


 そう言って平坂がぐるっと教室を見回す。

 誰も手を挙げない。とても1組らしくない。平坂もあれ? という顔になった。何も知らないとそう思うはず。


「…………月城くんとか、出てみない?」

「いや、自分からはちょっとな……」


 月城は本来、そういうタイプではない。もっと強引で、自分に自信があるタイプ。私との一件で成長した、ように見えなくもないが、実は違う。


 平坂がさらに困惑した。当然だ。


 これが、男子たちの、鈴木への嫌がらせ計画。私、そこにいたのに男子たち、教室で話し合ってた。推薦男子が中心。月城とか、他にも元パーティーメンバーの鹿島なんかも、いた。そこにいなかった1組の男子には、男子寮で話を通すということだった。


 ……そういえば、なぜメイド喫茶は? 男子の方が多いのに? 寮で根回し、失敗した?


 それとも、ものすごく単純に、戦う鈴木が見たいだけの人が、いる? それで誘いに乗った?


 ……それも考えられる。あれだけ強いのに、鈴木がダンジョンで戦う姿を見た人は少ない。一緒に活動しない時はだいたい岡山と一緒にいなくなるから。小鬼ダンには入ってるはずなのに。


「あー、これはちょっと……」


 平坂がどうしたものか、と教室を眺めている。


「なー、冴羽先生、聞きたいんだけど……」


 そこで推薦次席の上島が冴羽先生に話しかけた。その顔がにやついている。嫌な感じだが、こういう人間なのだろう。


「武闘会の出場者決めは、基本は希望者なんだろ? でも、希望者がクラスにいない場合はどうすんの?」

「その場合はクラスからの推薦だな」


 入院して坊主頭になって復帰した担任の冴羽先生は、敬語もろくに使えない上島には何も思うところはないらしい。


「だってよ、平坂。あ、やっぱここは首席だろ。鈴木を推薦するわ」

「おー、そりゃいーな!」

「鈴木ならやってくれんだろ!」

「首席だからな!」


 推薦男子が煽る。鈴木も自分の名前が出て、顔が少しだけ動いた。それからすぐにガイダンスブックを取り出して何かを確認し始める。


「……確かに、見てみたいよね」

「鈴木くん、噂だけはすごいし……」


 推薦男子の煽りで、女子の中にも、鈴木を見てみたい派が出てきた。


 これはもう、推薦されたら多数決で出場する流れ。鈴木、どうする?


 ただ単に出場するなら、鈴木が勝つだけ。しかし、鈴木はたぶん、望んでない。そこで勝つことに意味を見出してたら、鈴木は立候補する。迷わず。


 これは、先生の呼び出しすら拒否する鈴木なら出場を望まないという、そこを理解しての男子たちの嫌がらせ。それを単純に引き受けるだけの鈴木は見たくない。私は少しだけドキドキしてきた。


 さあ、何が、起きる? 鈴木、きっちりやり返して!





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