第3話 はじめの第一歩
「お、来たぜ馬車番が」
「まさか勇者パーティを抜けちまうとはな。あんなのが入れてたんだ、俺たちでもチャンスがあるかもだな」
「違いねぇや」
「……」
オレが勇者パーティを引退した翌日、諸々の手続きのために冒険者ギルドへやってきた。久方ぶりに足を踏み入れたオレを出迎えるのは後ろ指と囁き声。元々陰口を言われていたのは知っていたが、勇者パーティの加護がなくなった途端にここまで直接的になるとは思わなかった。
まぁ、彼らの言葉もあながち間違いではない。
オレが馬車番だったのも、勇者パーティには見合わないのも至極全うな事実だ。訂正する必要もなければ、取り合う必要もない。
綺麗にされた
「冒険者ギルドにようこそ……ってリルさん! お久しぶりです。噂は本当だったんですね?」
「ええ。ほとんどオレの我が儘ですけど……」
カウンターにいる受付嬢さんが困惑した表情でそう言った。
頷いてオレはその言葉を肯定。
昨日の今日で、よくもまぁここまで噂が回るものだ。人の噂好きというものはつくづく恐ろしい。
「今日からソロで活動されるということですか?」
「そうなりますね。それで色々と変更したいことがありまして」
「あ、はい。何を変更されるのでしょうか?」
「書類で済ませられそうなものは持ってきたので確認をお願いします」
何枚かの書類を提出。
パーティの変更手続きとか、そういった事務的なものだ。書き損じがなければそのまま受理されるだろう。本題は書類に書けないことだ。
「それで、相談があるのは冒険者ランクについてなのですが……」
「冒険者ランクですか?」
「はい」
冒険者にはそれぞれの実力を示すランクがある。基本的にはEからAまでの五段階。一部飛び抜けた実力者にはSの称号が与えられるが、これは例外的措置で目指すものではない。
そして、この冒険者ランクがくせ者だった。
「オレのランクはAになってると思うんですが……それをCにして貰うことって可能ですかね?」
「えっ!? ど、どうしてですか……?」
「勇者パーティに入る前のランクはBでしたし……オレがAになってるのは勇者パーティ補正がかなり強めと言いますか……Bの時も全うな実力かと言われたら怪しいので……」
「冒険者ランク引き下げは前例もありますけれど……それにしたって、希望するものではないはずなのですが」
うーん、と悩む受付嬢さん。
そりゃそうだ。
冒険者ランクは高めるもので、低くするものではない。でも、Aという称号が自分の実力に見合っていないことも事実。冒険者として一人前と称されるCランクからやり直したい。
それがオレの希望だった。
「少々お待ちください。ただいま、上に確認してみます」
「はい、お願いします」
カウンターの上に、離席中という立て札を置いた受付嬢さんはそのまま奥の方へと消えていった。カウンターの前で黙々と彼女が帰ってくるのを待つオレ。
数分程度の時間が流れたところで、トントンと誰かがオレの肩を叩いた。
「まさかアンタが勇者パーティのメンバーだったとはね」
「うわっ! サキか……」
振り向いた視線の先に立っていたのはサキ。
オレを勇者パーティから引き離した張本人――といってしまうと責任を転嫁しているようだが……まぁ理由の一つには違いない。
特徴的な装いは相も変わらず。
背中にある変わった得物も数日前に出会ったまま。
「よそ者のアタシの耳にも入ってくるくらい町はアンタの話題で持ちきりみたいだよ? 有名人さーん」
「悪い意味で、だろ?」
「そこは否定しないかなぁ~。で、そんな有名人さんがこんなところで何をしてるわけ?」
「ソロになったから……冒険者ランクを下げに来たんだよ」
「へぇ、珍しい。どのランクに?」
「C」
「C……? 丁度いいじゃん! なら、アタシの仕事を手伝ってよ!」
ポンと手を叩いたサキはキラキラと目を輝かせてそう言った。
戸惑うオレを気にせず、彼女は様々な言葉でまくし立てていく。「やー! 丁度困ってたんだよね。ソロじゃ受けられない依頼があってさ!」とか。「でも、よそ者の異国人と一緒に依頼を受けてくれるような相手もいなくて!」だとか。
「そこで! 明らかに誰とも連めなさそうなアンタの出番ってわけだ!」
「……」
なんて、結構失礼な言葉までぶつけられる始末。
オレに関することは全部事実なので、まぁ……そうですか、としか頷けないわけだが。
「というわけで、Cランクに目出度く格下げになったらアタシと仕事してよ!」
「オレにとっても渡りに船か……分かった。こちらからも頼むよ」
「そうこなくちゃ!」
指をパチン! と弾いてサキはニッコリと笑顔を見せる。
そのまま彼女が依頼の概要について話そうとしたところで――「お待たせしました」受付嬢さんが帰還。
「確認をしたところ、問題ないとのことです。リルさんは今この瞬間からCランクの冒険者となります。つきましてはAランクの冒険者として与えられていた様々な特権は剥奪となりますが大丈夫でしょうか?」
「はい、問題ありません」
「分かりました。手続きはこちらで進めておきます。ギルドカードを預かっても?」
「はい」
カウンターに金色のカードを置く。
Aランクは金、Bは銀、Cは銅。それ以下は一律で鉄が使われている。ちょっと寂しさを感じるけど、まぁ仕方ない。
「では、新しいギルドカードは翌日にはお渡しできるかと」
「分かりました。ありがとうございます」
「あ、手続きは終わった? じゃあ受付嬢さん依頼の受け付けをお願い! この有名人さんと二人で受けるよ」
グイッと割り込んでサキが一枚の紙をカウンターに叩きつけた。手に取り、それを確認した受付嬢さんはニコりと笑って「はい、確かに二人以上での受注を確認しました。Cランクの依頼ですね」と、それを受理。
「よーし、トキハカネナリ! 依頼主のところへサクっと行くよ」
「ああ、分かった」
受付嬢さんに会釈をしてオレたちは冒険者ギルドを後にした。
最初の依頼は薬草採取とか、そういう一人で出来そうなものをやろうと思っていたのだが――これも何かの縁という奴だろうか。
ともかく、生まれ変わったオレの第一歩目だ。気合いを入れて頑張ろう。
今日は最強パーティ馬車番の独立記念日です。馬車から一歩も出たことのない男、勇気を持って最強パーティから巣立つ。【スキル:取得経験値UPは神スキルだが、俺にとっては害悪以外の何者でもない】 雨有 数 @meari-su-
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