第7話 ついに...決着!
同時刻、
「やったぁ!
(全力で歌って、悔いが残らない様に頑張ってね。)
「勝ち進むなんて、凄いねぇ。」
(でも、不思議ではないよ。私が一番、歌純の頑張りを知っているから...。)
「さぁ、もっと歌純の歌を聞かせて欲しいねぇ。」
◇◆◇◆◇◆◇
「えっ、今おばあちゃんと望音の声が聞こえた様な...。」
(気のせいだとは思うけど、お陰で再認識出来たよ。
周りの事なんか気にしないで、ただ真っ直ぐに、自分の想いを伝えたい!
そう、この歌にのせて...)
「では、
"スウゥゥ"
「貴方ぁ〜が わたぁしにっ
くれたぁ〜のは、チケェエトでしょ?
ゆぅ〜めぇへとっ 突きすぅ〜すむぅ〜
・・マイウェイっ!」
静寂ーーー。歌純が歌い始めた後、会場を覆い尽くしたのは、歓声でも無ければ罵声でもなかった。
プロレベルの技術力など、彼女には無い。けれど、聴衆を惹きつける事が出来る。
それはきっと、感じるからだ。彼女の奥底から漏れ出る..."昂り《たかぶり》"を。
しかし、彼女は大勢に向けて発信している訳では無いのだ。ただ一人...画面の向こうにいる、あの人の元へ。
「グスッ」
(うんっ、うんっ。解るよ、というより流れ込んでくるの。今までの感謝の念や、元気づけたいって気持ち。
でも、何よりも嬉しいのは、これからも一緒にいたいって気持ちかねぇ?
私が昨晩思っていた事を、歌純も思ってくれていたなんて...感無量だよ。)
◇◆◇◆◇◆◇
一曲というのは思いの外短いもので、聴衆の
「では、点数を〜っと言いたい所なのですが、後攻の
皆さんは、最後の一瞬まで、この対決を見届けて下さいね!」
(結構...上手かった気がする。中学の頃のチグハグな感じが無くなっていて、凄く、格好よかったな。
って僕は、何を考えているんだ。集中しろ!結果を残さないと僕に価値は無い。認めてもらえないのだから。)
「気を取り直して、難波弦司さんお願いします。」
"ヒソヒソ"
「さっきから思っていたのだけど、難波弦司って、4年前、ジュニアピアノコンクールで準優勝したっていう...あの?」
「へぇ〜、って事はピアニストだよね?何でカラオケ大会に出たのだろう?」
"キィーン"
「すみません、ハウリングしてしまって...」
【誰も彼も、僕自身ではなく、僕の肩書きしか見ていない。両親だってーー
弦司の幼少期
「弦ちゃん、またピアノのコンテストに入賞したなんて、すごいわねぇ。お母さん、鼻が高いわ。」
「コラっ、甘やかすな。一位が取れなかったのだから、もっと練習時間を増やした方が良い位だ。
そうだな...次は、歌の習い事を削ってみるか?」
「待って、歌は...減らさないで欲しい。音楽関連の物は、やっていて損が無いと思うから。」
(ピアノと違って、僕のペースに合わせてくれるから...なんて言ったら怒られるよね。
でも僕、歌の方が好きなんだけどなぁ〜。)
「確かにその通りだ。うん、弦司は賢いし、優れたセンスを持っている。きっと良いピアニストになるはずだ。
父さんも母さんも、弦司の事を応援しているからな。」
「うん...」
(そんな事言われたら、断れる訳ないよ。)
ーーーだから僕は努力した。両親の期待に応えられる様に。
けれど、ここ最近は思うような成果が出ない。もうこの際、ピアノじゃなくても良い。誇れる様な名誉を...掴まないと。】
「改めて...お聴きき下さい。」
"あふれぇ〜る 思ぉいぃをっ、
伝えぇる 様にぃ〜"
(予選でも聴いたけど、伸びやかで、落ち着いた声だよね。
それに、肺活量もあるし、音程も正確だからまさに'お手本'って感じがするよ。
どうしよう?欠点がないから、もしかして満点が出ちゃったりして...)
「...ありがとうございました。」
「はいっ、ありがとうございました。
以上で、双方の歌唱が終わったので、結果発表に移りたいと思いま〜す。得点は...」
"ザワザワ"
「おっ、これはかなりの接戦でしたが、0.2点差で、清華歌純さんの勝利で〜す!」
"パチッ パチッ パチッ"
「えぇっ、弦司さんが98.9点、歌純さんが99.1点という事で、やはり99点の壁が厚かったという事でしょう。
それでは30分の休憩を挟みまして、決勝戦に...」
◇◆◇◆◇◆◇
(ふうっ、ぎりぎりだったけど勝てたんだよね?なんか、一気に緊張が解けて、眠気が...)
"トンっ トンっ"
「起きてくれ、一つ聞きたい事がある。」
「へっ、弦司君?」
(驚いたよ、正直もっと怒っていると思っていたのに、そうでも無さそう?
一体、何の話かな?)
「正直僕は、何で負けたのか分からない。
だから、君に聞きたいんだ。君と僕の差は何?」
「えぇっと、いきなり聞かれても、私も分からな...あっ!分かったかもしれないよ。
多分、さっきの歌を届けたい、明確な相手がいたかどうかだと思うの。私は居たけど、弦司君は...どうっ?」
「居たさっ!僕にだって...」
(いや、一旦整理しよう。僕が今回の大会に出たのは、名誉が欲しかったからだ。
両親やその他の人達全員に認められる位...ってあれっ?僕は具体的に、誰に喜んで欲しかったんだ?)
「直ぐに名前が出てこないって事は、自分でも分かっていないよね?」
「あぁ、そうかもな。成る程、理解出来たよ、君と僕の違いが。」
(結果に拘らず、真っ直ぐ思いを伝える...か。そんな自由で楽しそうな表現方法は、僕には出来ないな。)
「あっ、残り10分で決勝が始まるから、準備を始めた方がいいんじゃないか?」
「本当だね、決勝も頑張るから、良ければ観ていって...」
「嫌だよ!僕は忙しいんだから。」
少々毒舌気味の言葉を最後に、弦司はその場から去った。
そして、歌純は決勝を迎えたがーーー
「ううぅ、前回王者が強すぎたよ。99.8点って、ほぼ満点だよね?」
「あれは望音も驚いたね!流石に負けても仕方無かったと思うよ...。だから、何日も引きずってたらダメだよ?」
"プルルルルっ"
「あっ、病院からの電話だね。はいっ、もしもし...」
(歌純っちのおばあちゃんの手術、どうなったのかな?もし失敗していたら、歌純っちの努力が水の泡に...)
「...はいっ、では後日伺います。」
「それで!どうだったの?まさか...」
「やったぁぁぁ、無事に終わったみたい!
術後経過を見ないといけないから、数日はお見舞いに行けないけど...でも、成功だよっ、これは!」
「良かった...本当に、良かったね。」
「うんっ、これでやっと、一安心zzz」
(うわぉ、直ぐに爆睡したね...。
多分、ずっと気を張ってて疲れているんだよね?今は、ゆっくり休んで...)
終わり
この歌にのせて 一ノ瀬 夜月 @itinose-yozuki
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