第6話 前夜、後に開戦
大会前日、病室にて
「おや、
「ううん、最近来れなくてごめんね。」
「週に一度は必ず来てくれているから、充分だよ。」
「そうかな?本当はもっと来たいけど、おばあちゃんが満足しているのなら、良かったよ。
ところで...さ、手術の日っていつになったの?」
「手術はねぇ、来週末だよ。先生が言うには、今のところ転移はしていないから、手術が成功すれば、良くなるって言っていたかねぇ。
とはいっても、出来ることなら手術はしたくなかったよ。自分の年齢を考慮すると、やっぱり不安にーー」
(って、何を都合の良い言い訳をしているんだろうねぇ?手術を嫌う本当の理由は、自分が一番分かっているんだよ。
歌純の母で、私の娘の
「聡...子っ。ねぇ、嘘でしょう?なんで、あの子が亡くなって、お腹の子だけが生きているの?なんで...どうしてよっ!」
「
生まれてきた子に当たっても、良いことなんて、何もないじゃないか。」
「ふふっ、貴方はいつも、誰に対しても分け隔てなく優しいわねぇ。
でも、私は違うわ。聡子を犠牲に生まれてきた子に対して優しく接するなんて...無理よ。
だからなるべく距離を置いて、関わらない様に...」
「それはダメだ!律子、考え直してくれ。あの赤ん坊は、聡子が遺した唯一の子。つまり、俺達のたった一人の孫でもある。
その子を愛さないで、聡子に顔向けできると思うか?
もしくは、自分の人生を
「・・・」
「確かに、もう一度聡子と再会する事が出来たとしても、胸を張って会いに行けないだろうねぇ。
...分かったよ、私なりに努力してみるから、貴方も一緒にお願いね。」
「あぁ、必ず愛すよ。律子と同じ位、いやそれ以上に。」
なんて、約束はしたけれど、あの人も事故で亡くなってしまったからねぇ。
しかも、
「ーーちゃん、おばあちゃん!大丈夫?」
「おや、ぼうっとしていてごめんねぇ。何の話だったかな?」
(誤魔化しているみたいだけど、不安だよね?よしっ、明日の意気込みを言って、元気づけよう。)
「手術が不安だって話をしていたの。でも、大丈夫だよ。おばあちゃんが元気になる様にって願いを込めて歌うから、ちゃんと観ててね!」
「うん、明日を楽しみにしておくよ。」
(ねぇ、貴方。見ているかな?私達の孫は、こんなにも立派に育ったよ。
けど、もう少し成長を側で感じて、支えさせて欲しいねぇ。)
◆◇◆◇◆
次の日、カラオケ大会に参加するメンバー12人が会場に集合した。そこには、因縁のあの人も...
「やぁ、まさか本当に君も出場するとはね。」
(うわぁ〜、
「そうだね、私も知人に会うとは思っていなかったよ。弦司君はピアノだけで無く、歌も上手いんだね。」
「はっ?馬鹿にしないでもらいたいね!僕はピアノ以外にも、様々な習い事をしているし、その全てに対して真剣に取り組んでいるのだから。」
(まぁ、今回の大会に関しては、番組側がネームバリューを欲したという理由もあるだろうけど。
でも、結果を残せば知名度は上がるんだ。そうすれば、きっと両親も...)
「皆さ〜ん。ようこそっ、カラオケ大会へ!今からルール説明をするので、聞いて下さい。
まず、AとBの二つのリーグに分かれて頂き、予選を行います。これは順番に歌ってもらい、点数の最も高かった人が勝ち上がる形式です。
次に各リーグを勝ち上がった人同士でぶつかってもらい、それに勝った人には、前回大会の優勝者との決勝戦を行なって頂きます!」
"ザワザワ"
「は〜い、静かにしてね。それでは、説明も終わったので、予選を始めますよ。組み合わせは...こちらっ!」
(えっと、私がAで弦司君がB。よかった〜別リーグだ。
さて、歌うチャンスは最大で三回...確か
「大会に出るなら、何曲か歌う事になるはずだけど...あの曲は、いつ歌うのかな?」
「えっ、最初に歌うつもりだけど...ダメ?」
「う〜ん、勝ち上がる度に上手い人と当たる事になるから、最初は勿体無いよね〜。決勝か、準決勝辺りがイイかも。
勿論、最初も点数を取れる曲を選ばないと失敗するから、気をつけてね!」
ーーーよしっ、最初は好きな曲より、高得点を出せる曲にしよう。)
歌純の選択は功を奏し、0.3点差で予選を勝ち抜いた。そして迎えた準決勝、相手は...
「この光景に、既視感を感じるんだが...てっきり敗退したかと思ったのに。」
(えぇ〜、準決勝で弦司君と当たるの?
続く
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