思い出のタイムカプセル

あたりめ

思い出のタイムカプセル

 夕暮れどきに僕は懐かしい裏山を登っていた。


 地元の小学校の裏手にある小高い雑木林。ハイキングコースもあり、昼間は運動で訪れる人もいるが、この時間帯だと人とすれ違うことも無さそうだ。


 小学生の頃、仲の良い友達と何度も冒険ごっこに来たことが懐かしいが、あの頃より歳をとったせいか足取りは重い。手に持った銀の穴掘りスコップと肩のリュックサックの重さのせいもあるのかもしれないが。


 僕は今日、ここにどうしても掘り出したいものがあった。



 小学生のころに親友と呼べる二人の友人がいた。

 学校が終わり、放課後は毎日のように遊んでいた。

 ある日、テレビ番組で放送されていた「タイムカプセルの掘り出し企画」に興味を持った僕たちは、自分たちもタイムカプセルを埋めていつか掘り出そう!ということになった。

 少年たちの好奇心とはすごいものだ。


 頑丈そうな正方形のクッキーの缶詰に、思い思いの手紙と当時の宝物をいくつか投げ込み、缶が開かないようにガムテープで密封した。

 埋める場所には迷ったが、小学校裏手の山にひと際目立つ大樹があり、その周辺なら目印にもなるし忘れないだろう、ということで決まった。

 三人でスコップ一つを交代で使い、穴の深さが50~60センチほどになった時点でタイムカプセルを埋めた。

 完全に埋めきった後は「いつか大人になったときに掘り起こしに来よう」と誓った。


 そうして月日は流れ、15年が経った。

 人間関係とは変わっていくもので、進学・就職と進んでいくにつれて疎遠になっていった。

 同窓会で久々に再開したがどこかよそよそしく、昔一緒に遊んでいたのが嘘のようだ。

 それでも昔話に花を咲かせていたときに、ふとタイムカプセルの事を思い出した。

 話題として出してみると、二人も懐かしい顔で思い出したようだった。


 僕は勢いで「掘り起こしに行ってみるか?」と聞いてみた。

 が二人の答えは、

「時間が経ちすぎてあるか分からない」

「仕事や家庭が忙しくて時間が取れない」

 だった。


 思い出は思い出のままで十分、ということらしい。

 その場の雰囲気を察して僕も同調しその日は解散した。


 しかし、どこか心に引っ掛かりを感じだ僕は次の日タイムカプセルの掘り出しを決行した。


 そして現在に至る。


 山のハイキングコースをしばらく登って行くと、右手に大樹が立っているのが見えてきた。

 そこからはコースから外れ、若干の木々とすねほどまで伸びた雑草を踏みながら大樹を目指して行った。

 しばらく歩くと大樹の下に辿り着いた。まだ日は落ち切っていない。

 タイムカプセルを埋めたのは木から小学校側へ5メートルほど移動した位置だったので、その周辺を掘り始める。

 掘り進めるときに、当時のタイムカプセルを埋めるときの三人の光景を思い出していた。

 あの頃は、いつかみんなで掘り起こす事を夢見ていたのに、今の独りで黙々と掘っている姿は想像すらできなかっただろう。


 しばらく掘っていると、スコップの刃先が鈍い金属音とともに止まるのが分かった。

 ずいぶん暗くなってきたので、リュックサックに入れていた懐中電灯を取り出し、穴の奥を照らしてみるといつか見たクッキーの缶詰が出てきた。


 スコップで周りの土を押しのけ、手で持ち上げてみるとやはり僕たちが埋めたタイムカプセルだった。

 腐食しているようで所々メッキが剥がれたりはしているが、ガムテープの密封もあって中身は無事そうにうかがえる。


 僕はそっとテープを剥がし、中身を確かめることにした。


 缶詰を開けて懐中電灯で照らしてみると、中身は当時のままだった。

 僕たち三人が書いた手紙と宝物が光っているように見える。


 缶の中を漁っていると目的のものを見つけた。


 当時流行っていたトレーディングカードゲームで今もなお人気が高く、現在ではプレミア価値が付いているものだ。

 当時の僕も手に入れることができなかったのだが、こんな形で自分のものになるとは思ってもみなかった。


 目当てのカード数枚を大切にリュックサックに保管し、再び缶詰に蓋をして穴に放り込んで埋めた。


 あたりはすっかり日が落ちてしまい、懐中電灯の明かりだけが頼りとなってしまったが帰り道は迷わないだろう。


 登っている時と違って下りの足取りは軽く感じた。



 終わり

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思い出のタイムカプセル あたりめ @atarime83

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