退院とレアキャラ認定


「ねえ亜里沙さん。明日退院しよっか」


──突然だった。本当に突然だった。

ホームシックで泣いた日の翌日、午後の回診でおかぴ先生がそう言った。


「え???退院??あ、はい、します」

 展開が急すぎてついていけないながらも、二つ返事でOKする。ええ、できるもんなら退院したいですよ、家族に会いたいですよ、ええ。


「じゃあ、明日の8時から9時くらいにお母さん達にお迎え来てもらえるか連絡してもらえる?ダメだったら午後にしよう」

「あ、たぶん午前中で大丈夫です……」

「じゃあ決まりね」


 颯爽と言い残して去るおかぴ先生。

……まじか。

 信じられなくて来た看護師さんに何度も何度も確認してしまうけど、本当らしい。荷作りをしながらいまだに信じられない。


 翌日。

「お母さんー!!!」

 午前9時ごろに、食堂で待っていた母と無事再会。弾丸旅行ならぬ弾丸入退院。お世話になった看護師さんがみんな集まってお見送りしてくださった。

 久しぶりに戻る家は、木の匂いがして懐かしかった。病院はなんとなくエタノールの匂いがする気がするんだよね。夢にまで見た美味しい家での昼ご飯と夜ご飯を食べ、その日は就寝。



 退院後の次の日には、部活の定期演奏会に行ってきた。

 私も出るはずだった舞台だけど、ほんの1週間ちょっといなかっただけで、びっくりするくらいの仕上がり方。同輩・後輩の成長と尊敬、有り難さに、終始泣いてばかりだった。終演後ちゃっかりお花も写真撮影にも参加し、退院後すぐでヨボヨボゆっくり歩くことしかできなかったけれど、最高の一日だった。





 そこから自宅療養をして、毎日学校に行けるようになったのは年が明けた後だった。

 その後も傷を形成外科で診てもらったり、CTをとったり、病院には通い続けて約1か月くらいたっただろうか。

診察で、おかぴ先生が神妙な面持ちで私と向き合った。奥には看護師のAちゃんさんも控えている。



「いや、本当に17歳の女の子にこんなこと言うのは酷なんですけど……」


──デジャヴかよ。次に出る言葉に嫌な予感しかしないんだけど??


「病理検査にかけた結果、腎臓がんでした」


「……はあ」


返ってきた言葉が予想の上を行きすぎて訳がわからない。


「腎臓がんってね、非常に面白いがんで、腫瘍マーカーはないし、10年後にポッと再発したりするんです。だから今後もCTを定期的にとりましょうね」


……それ面白いのか?おかぴ先生??ただただ大変な病気なだけじゃない?


 じゃあ3ヶ月後にまたCT撮って再診ねと約束し、診察室を出ると、看護師のAちゃんさんに呼び止められた。


 どうやらAちゃんさんはがん患者の緩和ケアのプロらしい。

 ここで初めて、私がかかったがんがすごく希少なこと、私みたいな若い子のがんを『AYA世代のがん』と呼んで分類することを教えてもらった。とにかく私ががんの中でもレア中のレアなものにかかっていたことはよーくわかった。


 家に帰って、がんのことをたくさん調べた。

 手術での治療や投薬治療のこと。がん患者のコミュニティ。がんサバイバーさんのブログ。

 でも、オーソドックスながんの情報よりも希少がんの情報は、あたりまえだけど少なかった。



 そこで、このカクヨムに出会った。


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