お水をとるか否か

 手術翌日。ピッカピカのお天気で、ここで初めて担当してくれている看護師さんのお顔をはっきり見ることができた。

 ショートカットの可愛いお姉さんで、よくお話しをしてくれた。私は女優さんは詳しくないけれど、新垣結衣さんとか、広瀬すずさんに似てる……気がする。ポカリのCMが似合いそうな爽やかな方だった。

 体を拭いてもらって、新しいパジャマに着替えさせてもらう間、ずっとおしゃべりをしていた。「silent」というドラマとジャニーズの話題で盛り上がった。普段TVは見ないけれど、同輩の勧めで少し齧っておいたのが役に立った。ありがとう同輩。


 ただ雑談するだけじゃなく、しっかり今後の流れも聞いた。

 今いるのは臨時の部屋で、今朝の検診で異常がなかったら元の4人部屋に戻ることができる。

 また、今日は絶食だけどお水は飲める。これを聞いて、昨日から喉がカラッカラで仕方なかった私はテンションマックス。久しぶりに飲む水は、ただの水のはずなのにめちゃくちゃ美味しい。生き返る。


 しばらくしておかぴ先生と麻酔科の先生がやって来て、点滴や背中の痛み止めの確認をして、部屋移動の許可が出た……けれど、ここからが大変だった。


 まず、移動に際して車椅子に乗らなければいけないのだが、起き上がること自体が難しい。

 腫瘍のサイズ的に腹腔鏡手術は断念し、開腹手術になった。それゆえに鳩尾からおへその下まで20センチほどの手術の痕があるのだ。

 そんなこんなで首しかあげられないし、あちこちに管が付いているため寝返りも無理。お姉さんにほぼ抱え上げられるようにして車椅子に乗せてもらえた。小柄なお姉さんなのに簡単そうに持ち上げていて、看護師さんって本当にすごい。久しぶりに座って、頭がグラグラする。あと、管がたくさんつきすぎていて絡まってストレスになるなあ、というのが車椅子移動の感想だった。


 移動してからはひたすらに睡眠。気がつくともう夜で、廊下以外真っ暗だった。寝返りが打てなくて背中が痛い。眠れない。そして管に繋がれすぎて違和感しかない。

「何かあったら呼んでくださいね〜」と言われたナースコールを押して、寝返りを打たせてもらう。すっかり赤ちゃんになった気分。


 「ありがとうございました!」

 夜なので小声でお礼を言って眠ろうとするが──おっと、今度は喉が渇いた。

ペットボトルはベットの横の棚にあり、手を伸ばしても届かない。どうしよう。

 もう一回ナースコールをするか?いや、でもさっき呼んだばっかりだしな。看護師さんだって忙しいだろうし……もし私が同じことをされたら『一回で要件を済ませろよ!』とブチギレること間違いなしだ。たぶん心が広い看護師さんは優しく対応してくださるんだろうけど……なんか悪いな。命に関わることなら迷わず押したほうがいいんだろうけど、「〇〇とってください」とか、重要性が低いんだよな。

 じゃあ我慢する?──だめだ、喉が乾いて寝つけなさそう。

本当にどうしよう。ナースコールを押すか、我慢するか。どうしようどうしよう。お腹の痛みもあいまって、何が何だかわからなくなってくる。


 散々悩んでいるうちに、いつのまにか朝になっていた。


 部屋を見回りに来てくれた看護師さんに、

「あの……お水をとってもらえますか……?」

 と、からっからに乾いた口でお願いして、次に水が飲めたのは術後2日目の朝。



 やっと今日からご飯が食べられる!!

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