覚えているのはサムズアップ
当日。ルームメイトの方々が朝食を配膳してもらう中、ベットに座ってぼんやりと待っている。これから手術だけど、全然実感が湧かない。でも、不安な中でも今日のメニューは気になる。ご飯を楽しみに毎日生きてるといっても過言ではない私。めちゃくちゃ気になるけど、我慢がまん。
なんとなく落ち着かなくて、部活の同輩と後輩からのメッセージを見返して元気をもらったり、母と連絡を取り合ったりして気を紛らわす。
しばらくすると、看護師さんがやってきた。知らない顔のお姉さんだけど、なんと私の通っていた学校の卒業生らしく、すぐ仲良くなった。どうやら手術室まで案内してくれるみたい。廊下を進んで、エレベーターホールで両親と合流!家族は私の手術が終わるまでは病院内待機らしい。私は麻酔で手術中の記憶はないからいいけど、待つ方はすごく大変なのでは?私だったらすることなくて絶対飽きるね。うん。
手術室の一歩手前で、父と母とはお別れ。
「ばいばーい!」
これから遊園地でもいくのかな?というくらい気軽に手を振った。
さて、手術室の手前の部屋でもう一度名前と生年月日、手術部位を聞かれ、リストバンドをスキャン。TVでしか観ないような銀色の扉の中へ入る。
──わあお。
当たり前なんだろうけど青い手術服に身を包んだお医者さんや看護師さんがたくさん。やっぱりこれは夢かもなあ、普通こんなところ入れないもん、と緊張しつつも感動している私。
今回は左腎臓をとる手術なので、左側を上にして手術台に猫のように横たわる。あったかいタオルをかけてもらい、ペタペタと機械やらを貼り付けていく看護師さんたち。
「じゃあね、背中に注射入れるね〜」
痛み止めの役割を果たす注射を背骨のあたりに入れてもらう……のだが、正直言ってこれが今回の手術の中で1番痛かった。
「ギャオ!」
とまあ、人間じゃないような悲鳴をあげてしまい、また涙を看護師さんたちに拭いてもらう。
「今日はよろしくね。じゃあ、これから麻酔入れてくからね」
おかぴ先生と本日初対面。今日はプロテインも綾鷹も持ってないし素足じゃないけど、ちゃんとおかぴ先生だ、と謎の安心感。
「大丈夫だよー」
「ね、注射頑張ったから手術も大丈夫だよ〜」
周りにいる看護師さんたちが優しく声をかけてくれる。ありがたい。
それに紛れて、
「大丈夫です!私たちに任せればね!!」
ドヤ顔でそう宣言してくれる眼鏡のおじさん──たぶん手術を手伝ってくれる、同じ科のお医者さん──がいた。
ばっちり自信のある顔でサムズアップするそのお医者さん。のちに泌尿器科の偉い先生だと知るのだが、その時は不思議なドヤ顔をしてくる人としか思っていなかった。
──いや、そんな自信満々にグッジョブ!ってされても困るし!!というか誰だ?この先生は誰なんだ???
それが私の手術前最後の記憶になった。
「……今何時?」
気がつくと目の前に父と母がいた。
「×××時だよ」
よく聞き取れないけど、まあいっか。眠すぎてたまらないし、何がなんだかわからない。とりあえず生きてるみたいだからヨシ!
「自分の取ったやつ見た?」
母に聞かれたけど何のことやら。夢見ごごちで両親とバイバイして、ふわふわとした気持ちのままお昼寝をして、あっという間に夜になった。
夜中に起きた。
廊下を見ると暖かい色の電気がついている。前いたところとは別の場所だな、というのはなんとなくわかった。
全身が管に繋がれていて身動きが取れないし、ずっとシュコーッ、シュコーッだのピッ、ピッだの色んな音が聞こえて眠れない。頑張って目を瞑って羊さんを数えて、なんとか朝を迎えた。
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