不安でもご飯は美味しい

 とうとう手術前日になってしまった。

 朝9時から病院に行って、荷物などを搬入。無事に病棟に着き、書類を提出。ここまでは病棟内の食堂で母と一緒に手続きをしていたが、ここでお別れらしい。


「ばいばーい!」


 キャリーケースをゴロゴロと弾きながら食堂を出ていく。手術の日の明日も来てくれるから、“また会える”と言い聞かせて笑顔で手を振った。私を見送る母の心配そうな顔と、入院を伝えた時のしょぼんとした父の顔が重なって……おっといけない、目から水が。看護師さんの説明に集中しなければ。


 看護師さんの案内のもと、病室に入る。

 部屋は4人部屋にしてもらった。6人でもよかったけれど、たぶん荷物が入らないとの理由でこのチョイス。個室もあったけれど、寂しがりな私は絶対ムリだ!と思って却下。相部屋のルームメイトの方は──ぼんやり聞こえてくる声の感じだと私よりみんな年上っぽい。おばあちゃん多め。まあ、同世代はいないから友達作りは諦めよう。

 鍵付きのロッカーの場所や貴重品入れなどをテキパキ説明してくれる看護師さん。今日の予定は手術の確認のみ。後は明日に備えてしっかり寝てね!とのことだった。


「じゃあ、ご飯来るまで荷物開けたりゆっくりしててね!」


 カーテンがシャッ、と締められ、区切られた空間を改めてまじまじと見てしまう。

──昼ご飯までか……暇だな。

 とりあえず片付けを済ませてタブレットとスマホの充電機を設置。Wi-Fiは使えないのでこの期間はデザリングと持ってきた5冊ほどの文庫本でやり過ごす。面会はコロナ禍のこともあり禁止だけど、看護師さんを通じて荷物のやり取りは可能らしい。飽きたら新しい本持ってきてもらおーっと。


 母とメッセージを送りあったり、動画を悠々と見ているうちに、廊下からガラガラと音が聞こえる。間も無くして、ノックと共にカーテンが開いて、

「麦茶お配りしてます、コップありますか……あ、新入りさん?」

現れたのは配膳のおばちゃま。クリーム色のエプロンをつけて、手には麦茶のピッチャーを持っている。

 挨拶をしながらコップにあったかーい麦茶を入れてもらってほくほくな私。心も体もあったまるとはまさにこういうこと。

「もう少ししたらご飯来るからね〜」

はあい、と機嫌よく返事して、そのまま10分後。


「すごい……!」


 給食を彷彿とさせる黄色のお盆の上に、ご飯、サラダ、お漬物に厚揚げ炒めが綺麗に乗っかっている。しかもオレンジジュースまで付いている。

 しかも味の美味しいこと!ご飯はつやつやだし、トマトもシャキシャキで、キンキンに冷えている。厚揚げもふっくらしていて、よく絡んだソースの味がご飯によくあう。高菜も辛すぎずシャキシャキしていて、作り方を習いたいくらいだ。

 よく病院食は味が薄いとか言われるけれど、私の場合その心配は要らなかった。むしろまた給食気分が味わえて嬉しかった。高校はずっとお弁当だから、小中学校の給食が懐かしいんだよね。

 ひとつ難点があるとすれば──これは私の栄養状態の問題からだと思うけれど──お米の量が多かったこと。

 この入院期間、1食につきお米240gを頑張って食べた。普通のお茶碗に入ってくるのだが、食べても食べても底が見えない!まあ、ふりかけなどのご飯のお供はないので、おかずを計算してお米を食べることができるようになったから結果オーライかな?


 すっかり空になったお皿とお盆を戻して、しばらくすると看護師さんがやって来て、例の手術の確認と、手術の左右を間違えないように、左手の甲に油性ペンで◯を描いてもらった。

 そのあと、Aちゃんさんも来てくれて、

「大丈夫〜?なんか心配なことない?」

お話ししてちょっと気分が晴れた。本を読んだりドラマを見たりと満喫はしているがこれでも不安なのだ。



 現実逃避しているともう夜ご飯。鯖の竜田揚げに舌鼓を打ち、麦茶を飲んでほっこりタイム。今夜の9時からは絶食なので明日の朝ごはんはなし。

 さっさと歯を磨いてパジャマに着替える。この入院のために前開きパジャマというものを3枚ほど買った。今日は気合を入れてピンクのくまちゃんにしよう!



 寝る前の血圧測定をしてくれた看護師さんからもらった下剤を飲んで就寝。

──絶対眠れないと思っていたのに、疲れていたのか、すぐ寝落ちしていた。気づいた時には手術当日の朝を迎えていた。

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