おかぴと私
診察室に入る。
「こんにちは、よろしくお願いします」
座っていてもわかるくらい背が高い。この、切れ長の目の賢そうな先生が私の主治医らしい。この前見てもらった消化器外科の先生と同い年くらいかな。しっかりしたお兄さんって感じだ。
この先生に私は「おかぴ先生」とあだ名をつけた。苗字とか名前に全然関係ないのに出てきたニックネームだから、理由があるわけではない。完全なるフィーリング名付けだ。いつも家族の間で話に上がる時はこの名前なので、ここでもそう呼ばせてもらおう。
不思議なことに、先生は素足に運動靴を履いていた。机の上にはザバスのプロテイン(ヨーグルト味)がひとつ。
筋トレが趣味なのだろうか。……わからない。医者……プロテイン……?忙しすぎるから昼ごはんがわりなのか?うーむ、わからない。
でも、妙なミスマッチさに、少しだけ緊張がほぐれた。
「それで、CTで左腎臓に腫瘍が見つかった……と。でも、このままだとどこに腫瘍があるかわからないから造影剤使ってCT受けようか」
造影剤とは、CTの画像を見やすくするためのもの。もう私の記憶にはないが、小さい頃にぜん息になっていた時のカルテが残っていたらしく、前のCTでは使わなかったらしい。
「造影剤を使う時は食事制限があるから、今日はできないよ。今日は看護師さんから説明を聞いて終わりね」
ありがとうございました〜、と診察室から出て、待合室のソファに座る。
「……先生、素足に運動靴派なんだね」
私がつぶやくと、母もぽつりと言った。
「ね。プロテイン……好きなのかな」
どうやら、ふたりとも同じところを見ていたようだ。
程なくして看護師さんが来てくれて、CTと造影剤についての書類を貰った。CTを受ける時は毎回「ctでの被ばくについて」の説明と、同意書が渡される。これを家で書いてきた上で、検査の日に受付に出す。
「あと、CT受付に行く前に、採血もしてきてくださいね。採血室はここのエスカレーターを登って2階右手にあります。」
あーなるほど!とうなずいて、納得したような顔をする母。対して、話についていけず、わかったふりを決め込んで実際何も考えてない私。
まだこの病院の広さに慣れない。
さっさとお会計をして、車に戻る。この病院に来るとほぼ確実に雨な気がする。別におかぴ先生と初めて会っただけで、何もしていないのに、疲労感がハンパじゃない。めちゃくちゃ待ったからだろうか。
「またここに来なきゃいけないのか……。」
先が思いやられて、母とふたりため息をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます