第12話 トーナメント序盤、まずは後輩に場数を踏ませることから始める⑤:そして嵐は忍び寄る
(うーん、これは蜜石に試練を与えすぎちゃったかなあ……)
帰り際、水川、岩崎、蜜石の顔は暗かった。
序盤の圧倒的優位が、いつの間にか乱打戦になってしまい、何だか楽をできない試合展開を迎えることになったわけで。
気が付けば最後は、9対16の8回コールド。勝ちは勝ちだが、反省点も多い試合であった。
一番落ち込んでいるのは、この試合で一番頑張っていた蜜石である。
序盤の好調さが嘘のようであった。だが誰も彼女を責めることはしなかった。
(そりゃあ打たれるさ。俺と水川は球速差があまりない。変化球も俺の方が多彩で、水川の方はパターンが少ない。極めつけに、俺もアンダースローやサイドスローの投球をまあまあやるから、相手打者の目付がそんなに変わったわけじゃない――)
蜜石の堅調さならいける、と過剰に期待してしまった。
まず水川も岩崎も、まだ邦洲国の球に慣れきっていない。
滑りにくいということは、変な引っかかりが出来てスピンがかかってしまうということ。ナックルを多投する岩崎にとっては致命傷である。また、縫い目の高さが違う以上、変化の軌道も多少ずれる。水川も今までの感覚が通用しないわけである。
投手陣が不調になるのは当然のことだった。
加えて、"打者勝負"の気風が強い大陸国の野球に慣れきってしまった彼女たちは、盗塁警戒や、バント処理のフィールディングが甘い。[1]
参考[1]:https://kakuyomu.jp/works/16817330658631073996/episodes/16817330661227941490
高校野球を知っている人間ならすぐに分かると思うが、高校野球では送りバントやスクイズが多発する。
ゆえに、ピッチャーのフィールディング能力は非常に重要となる。
だが『ステイツではベースボールは春のスポーツなのデス! 子供は色んなスポーツを色々経験するものデスよ!』とばかりに、大陸国の子供たちは、バント処理のような部分的かつ地味なプレーを徹底的に練習することは少ない。
それどころか、ちょっとでも投手としての才能に自信がある子供であれば、"その自信のある投球術をさらに磨く"、"得意をさらに伸ばす"、という方向に考えるのが、大陸流の普通の考えなのだ。
要は、①球速もあまり変わらないし決め球がむしろ減った投手がマウンドに上がった、②まだ邦洲球へ慣れきっていない、③フィールディングに課題を抱えている、という三重苦。
加えて言うなら、アンダースロー投手やナックルボーラーは、球速が遅くフォームも独特なので、結構盗塁しやすかったりする。エンドラン戦法も割と刺さる。
結果、この大量失点である。
(いやはや、蜜石も苦しかっただろうな……どうリードすればいいか分からなかっただろうしな)
蜜石の課題はシンプルだった。
王道の配球パターンが崩された後の立て直し方に難があった。
例えば水川へのリードの場合、決め球であるシンカーに頼りすぎて、相手がシンカーに慣れてしまった。
これはむしろ、相手の県立勝処高校が上手かった。狙い球をしっかり絞ってそれを叩くことを徹底していたのだ。
シンカーだと決めたならシンカーを叩く、シンカーに入る前のコンビネーションの直球を叩くと決めたなら直球を叩く。
そうやって真正面から水川を切って捨てたのだ。
同じくフィルにも、緩急とコースを使い分けさせていたが、「インハイ速球」「アウトロー速球」「アウトロー遅い球」の黄金パターンが目立った。
フィルは頑張って速いナックル、遅いナックルを使い分けていたが、今日は揺れがいまいちだったことも相まって、ずるずると失点してしまったのだ。
当然ナックルなんだから制球もいまいち。
ボール球連発でカウントを悪くしてしまい、甘く入るしかなくなった球を狙い打たれるという、悪いときのあるあるパターンでやられたわけである。
「あー……あーし泣きそー……」
「つかちぃ……ウチも……」
「ワイはクズや……」
三人ともひどく憔悴している。だが誰も彼女たちを責めるものはいなかった。
何を隠そう、こうなるよう仕向けたのは俺なのだ。
わざわざ1年の彼女たちには言わないが、上級生グループトークでは『今日は守備練習の日だと思ってくれ』とすでに言ってたので、こんなことで怒っている先輩は誰一人いない。
元より、ときめき学園は守備力に課題アリなのだ。今日は、打たせて取る練習、もとい、打たれても取ってもらえるような守備練習をしていたも同然。
なので一年生たちの気落ちは、先輩からすると微笑ましいものである。
これを糧にして成長してほしい。それで十分なのだ。
それよりも、俺は次の試合で少々気がかりがあった。
(うーん、次の試合が私立晄白水学園じゃなかったら最高だったんだけどな……。ここまで俺たちは主力投手をほぼ温存して、情報ほぼ皆無で勝ち上がってこれたから、本来なら次の高校が大苦戦する計算なんだがなあ)
本来俺が思い描いていたシナリオでは、そういう下心があった。
『ときめき学園には緒方、森近、星上という三人のエース投手がいるらしいけど、どの程度の仕上がりぐらいなのか全然情報がないなあ……』という状態から、いきなり俺たちのお出ましで相手に困惑してもらう――という目論見があったのだが。
しかし次は、何度か練習している私立晄白水学園。
その次は、一度対戦したことがある上、個人的に親しくしている馬杉がいる私立鹿鳴館杜山高校。
どちらもときめき学園の情報を結構詳しく知っている相手である。
つまり、ここまで緒方や森近を登板させなかった采配が、単純に体力温存と後輩育成にしかなっていない。
情報戦の観点では特に効果なしという訳だ。
(……私立晄白水学園は監督がいい。練習試合では勝っているから心配はとくにないが、楽に勝てる相手でもない。つまり、森近や緒方を解禁するのはもう避けられない)
正直、そろそろ試合勘を取り戻してほしいということで、彼女たちを登板するいいタイミングではあった。その最初の相手が、勝手知ったる晄白水学園というのは、こちらも好都合である。調子の良しあしを図るバロメーターにもなってくれる。
しょぼくれる一年三人を励ましながら、俺は次の試合に向けて考えを巡らせていた。
とはいえ、特にときめき学園は策を弄することは考えていないが――いつものように打撃で勝てばいいので、俺は再度向こうの配球パターンぐらいおさらいするかな、と考えていた。
◇◇◇
【頑張れ】近江県高校野球スレ117【湖国球児】
588:やきうのお姉さん@名無し
8回までもつれたけど、結局ときめき学園の圧勝
9対16
589:やきうのお姉さん@名無し
県立勝処高校、公立高校の星だったのになあ
590:やきうのお姉さん@名無し
ホッシに投げてもらえて向こうも満足したんちゃうか?
一応エースやろ
591:やきうのお姉さん@名無し
近興越高校といい、県立勝処高校といい、打撃力あるチームはときめき学園相手でも善戦するイメージあるね
592:やきうのお姉さん@名無し
まあ多少の好投や好守備で抑え込める打線じゃないしな
ときめき学園の泣き所は守備力やな
593:やきうのお姉さん@名無し
品のない打線……
594:やきうのお姉さん@名無し
ゲッツーネキ1号の羽谷とゲッツーネキ2号の緒方でなんとか保ってるようなもんだからな……ときめき学園の守備って
595:やきうのお姉さん@名無し
センターに入る星上や森近の酷使っぷりも中々
596:やきうのお姉さん@名無し
緒方とかいうセカンドとセンター守れてホームラン打ててクローザー務められる化け物みたいな四番打者
597:やきうのお姉さん@名無し
>緒方とかいうセカンドとセンター守れてホームラン打ててクローザー務められる化け物みたいな四番打者
森近とかいうセカンドとセンター守れて3割5分打てて先発エース務められる化け物みたいな打点王
星上とかいうセカンドとセンター守れて4割打ててリリーフエース務められる化け物みたいな男子
598:やきうのお姉さん@名無し
ときめき学園の打線が三割五分超えクインテットって言われてたけど、森近抜いたら四割カルテットになるって話すこ
599:やきうのお姉さん@名無し
そら(三割五分しか打てないエースは)そう(お荷物)よ
600:やきうのお姉さん@名無し
県立勝処高校はバント戦法で上手くいったし、ときめき学園ってもしかしてバントに弱いんかな?
601:やきうのお姉さん@名無し
>>599
チーム一番の打点王なんだよなあ
602:やきうのお姉さん@名無し
>>595-597
それに比べて甲野のゆとりっぷり
ただ歩くだけでいいもんな
603:やきうのお姉さん@名無し
敬遠多すぎて甲野が歩くだけの人になってるの草
604:やきうのお姉さん@名無し
歩くだけの人(打率5割4分)
605:やきうのお姉さん@名無し
緒方も攻撃時は歩くだけの人だから、さほど負担はない
あいつは守備の人や(打率5割2分)
606:やきうのお姉さん@名無し
実は高校入ってから緒方より星上の方がホームラン打ってるって話やめーや
ちんさんよりホームラン打ってないまんさんが四番打者やってるねんぞ()
607:やきうのお姉さん@名無し
>>606
数えてみたらほんまや草
608:やきうのお姉さん@名無し
>>606
☆△
609:やきうのお姉さん@名無し
>>606
お前それアトラス大陸の男子野球の記録も計上してるやんけ
邦洲大陸通算記録持ち出すのはNG
610:やきうのお姉さん@名無し
>>606
歩かないホッシが悪い
611:やきうのお姉さん@名無し
なんでメジャーリーガーでもないただの高校生の話で、邦洲大陸通算記録って単語が出てくるんですかねえ……
612:やきうのお姉さん@名無し
お前ら勘違いしてるけど、スラッガーの仕事は歩くことやぞ
613:やきうのお姉さん@名無し
とにかく走ればいいと思ってる羽谷にはスラッガーのセンスがない
ときめき学園のクリーンアップの恥さらし
614:やきうのお姉さん@名無し
>お前ら勘違いしてるけど、スラッガーの仕事は歩くことやぞ
えぇ……(困惑)
615:やきうのお姉さん@名無し
>>609
秋の大会と春の選抜で合わせて本塁打11本しか打ってない緒方が悪い
ホッシは大陸で本塁打29本やぞ
616:やきうのお姉さん@名無し
緒方も甲野も、普通の高校に行けば本塁打王になれる素質があったはずなのに、蓋を開けてみたらホッシにさえ本塁打数負けてるもんな
あいつらはやきうを歩く競技だと勘違いしてる
617:やきうのお姉さん@名無し
ときめき学園の雑魚エピソードで打線組んだ
1 (中) 一番の打点王がクリーンアップ陣営で一番打率低い
2 (二) やきうを歩く競技だと勘違いしてる
3 (左) それに比べて甲野のゆとりっぷり ただ歩くだけでいいもんな
4 (一) ちんさんよりホームラン打ってないまんさんが四番打者やってる
5 (三) 下位打線の方がよっぽどバット振ってるという事実
6 (左) 弱すぎて男子が混ざってる学校があるらしい
7 (DH) 下位打線全部バント&バスター作戦
8 (捕) 投球フォームが安定しないオスが投手やってる雑魚高校
9 (遊) ご飯がっつり食べないくせにお菓子ばっかり食べてる
投 9回完投できた投手が一人もいない
618:やきうのお姉さん@名無し
>>617
一塁手と三塁手にスラッガーが不在、投手と二塁手と遊撃手と捕手が仕方なくクリーンアップ陣営やってる
追加で
619:やきうのお姉さん@名無し
>>615
秋の大会と春の選抜で個人で本塁打通算二桁行ってたら十分なんですがそれは
620:やきうのお姉さん@名無し
>>617
すっげー弱そう
ヒョロガリ進学校の野球部とかかな
621:やきうのお姉さん@名無し
>>617
監督不在
が入ってない、やり直し
――――――
※せっかく読者数の増えるお盆期間なので、しばらく宣伝に力を入れます!
ここまでご愛読いただきありがとうございます。
本作「貞操逆転異世界に転生した俺、今度こそ野球を真剣にやる: 〜俺だけわかるセイバーメトリクスと現代野球〜」ですが、なんと
『読者1500 → 2000フォロー超え』
『累計ジャンル別ランキング 500位 → 400位(47,347作品中)』
……と数字を伸ばすことができました!(前回から僅か二週間です!)
これもひとえに皆様の応援のおかげです! この場をお借りして感謝申し上げます!
実は地味ながら、
「野球」を含む小説 週間ランキング1位(1,302件)
「部活」を含む小説 週間ランキング1位(2,821件)
「群像劇」を含む小説 週間ランキング2位(2,185件)
「青春」を含む小説 週間ランキング7位(20,744件)
……と大健闘しております。(※2023/08/20時点)
こんなに応援いただいて、作者冥利に尽きます。
これからも頑張ってまいります!
どうぞ皆様、小説フォロー、★評価、レビュー、いずれも更新の励みになりますので、何卒応援お願いいたします……!
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