第44話 第三の悪魔
私が生み出したいばらによって吹き飛ばされた魔物はダンジョンの壁にぶつかり、地面に尻餅をつく。
そのまま痛みに打ちひしがれているのか少しの間、動きに隙が出たのを見逃さず、私は生み出したいばらでその魔物の身体を拘束していく。
拘束すると言ってもただの縄ではない。前面に棘が付いているいばらだ。
当然締め付けられ始めた魔物は更に苦悶の声を上げる。
しかし、どれだけ必死で藻掻こうともほどけることはない。それもそうだろう、並大抵の太さじゃないんだから。
「ふう、一先ず安心かな。じゃあこれで」
そうして私が歌いだしたのは『剣劇』。無数の剣を作り出し、拘束され動けなくなった魔物の体に突き刺さっていく。
魔物の防御が硬いとはいっても何本もの剣が突き立てられれば、意味をなさない。
次第に力を失っていった魔物の方から動きが見えなくなったところで私は歌い終える。
「ようやく倒せました」
『ナイス~』
『心配したよ』
『ていうか今の魔物、いったい何だったんだ? 見たことない』
「何だったんでしょう? 私も分かりません」
コメントにそう返しながら私は倒れている魔物の下へ歩いていく。
筋力の発達した腕と脚。その手に握られていた三又の槍は少し離れた場所に転がっている。
魔物の持っている武器はたまに物凄く強い効果があって、星持ちの探索者の中にはそういった強力な武器を使って成り上がった人がいる。
でも流石に大きすぎるから私じゃ使えないかな。
取り敢えず武器はそのままに本体の下へと近づき、亡骸となったその体をまじまじと見つめる。
やっぱり、額に刻まれている文字は三って事なのかな? でも魔物に数字の概念ってあるのだろうか?
よく分かんないな。
その時であった。
部屋の私が居る反対側の方からゴゴゴゴッと重厚な音が聞こえてくる。
そして奥の方へ続く道のような物が見える。
「ボスを倒したからですかね?」
『あれじゃない? ボスを倒した報酬的な』
『こんな強いボスを倒した報酬なんだからよっぽど良い物なんじゃない?』
「だったら嬉しいんですけど」
武器とかは歌を歌っていない間使えない私からすればあまり必要はない。出来れば防具とかだとありがたいんだけどな。
そう思いながら私は魔物から離れて現れた道の方へと歩み始める。
そしてその道へと足を踏み出した瞬間、プツンッという音が聞こえ、配信していた筈のドローンカメラが地面へと落ちる。
「あれ? いきなり何で?」
こんな事、今までのダンジョン探索では一度もなかったことだ。
もう一度配信枠を設けようとするも電波が通じないのか携帯が繋がらない。
取り敢えず壊れていないことを願いながらドローンカメラを脇に抱え、奥の方へと進んでいく。
暴走したダンジョン内、そして現れた異形のボス。
ボスを見て私が思ったのは、まるで映画の中に出てくる悪魔みたい、つまりデーモンみたいだってこと。
「やっぱり暴走したダンジョンはデーモンと関係があるのかな」
しばらくして現れた武骨な冷たい石のドア。私は躊躇うことなく、その扉を押し開け、中へ入っていく。
その中にあったのは質素に置かれた机、そしてその上に一冊の本であった。
本の表紙を見て私は思わずあっと声を出す。
「これってさっきの魔物じゃ」
牛の頭に三又の槍。間違いない、さっきの魔物だ。
そう判断すると私は早速本を開き、読もうとし始める。
でも……無理。全然読めないんだけど。
「これっていつの時代の文字なの? 一応、日本語なのは分かるんだけど……」
所々ひらがなは読むことが出来るが、それらをつなぎ合わせても何を意味するのか分からない。
そうして途方に暮れながらも読み進める事、数十分。
とある文字を見つける。
「でーもん。やっぱりあれもデーモンの一種だったんだ」
かろうじて断片的に読めたその一行には『三番目のデーモン』と書かれていた。
やっぱり額に書かれていたのは数字の三だったんだ。
「……でもこれだけじゃよく分かんないよ~。どうしよう?」
取り敢えず本は持って帰って誰かに解読を頼もう。
後はあのデーモンの亡骸だけど……。
「流石に持って帰るのは無理だよね……ていうかそんな気力はもうないし」
そうして私は本を閉じ、立ち上がるとダンジョンからの帰路を探す。
多分、こっちの方に行ったらあると思うんだけど……。
「見つけた」
思惑通り、そこには巨大な水晶が宙に浮いていた。
それに記録石をかざすと、記録石にはこう記されているのであった。
『第三の悪魔 completed』
歌姫の狂想~歌いながらダンジョン攻略してたら勝手に配信されて知らぬ間にバズってた。試しに配信してみたら急上昇にも乗ったんだけど~ 飛鳥カキ @asukakaki
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