第43話 ボス戦
「痛たたた……」
全身に痛みが走っているのが分かる。さっきの衝突の余波で体が吹き飛ばされて、壁に打ち付けられたんだ。
歌を歌っている途中は体も強化されてるから死にはしなかったけど、打ち付けられた背中に痛みが走る。
『歌姫! 大丈夫!?』
『こんなに派手に飛ばされるマナちゃん初めて見た……』
『大丈夫なの?』
吹き飛ばされたのを見た視聴者さんからのコメントが全て私の安否を気遣うものへと変化していく。
「なんとか大丈夫です。でもこんなのを毎回受けてたら不味いかもですね」
今までレベル8の敵を相手にしてもここまでにはならなかった。絶対にレベル9以上あるな、これ。もしかしたら魔物として最高レベルのレベル10ぐらいあるのかもしれない。
目の前で仁王立ちをする牛頭の魔物の方を見る。さっきの衝撃を受けてあの魔物も意外とダメージ食らってそうだな。
そう思って眺めていると私はとあることに気が付く。魔物の額辺りに刻まれている不可解な文字のような物。外国語? わかんないな。
「なんか魔物の額に文字が書かれてません? 誰か知ってる人いますか?」
『ホントだ』
『何の文字だろ?』
『文字なのかどうかもわかんねえww』
『数字とか?』
「数字……確かに言われてみれば数字っぽいですかね」
三本の線で構成された不可解な文字。仮に数字とするなら三ってことなのかな? まあよくわかんないけど。
「取り敢えず倒します」
そう言うと私は再度歌い始める。今度の歌は『剣劇』。最初は静かで徐々に激しさを増していく曲調の『反逆の光』とは違い、『剣劇』は最初から最後まで激しさを保ったまま駆け抜けていく。
私が歌い、前方へ手を大きく広げると一瞬にして無数の剣が生み出され、魔物に向かって射出されていく。
『キレイ……』
『マナの配信は相変わらず凄いな。歌も聞けるし、臨場感もあるし』
『すげえええ!』
『カッコいい!』
戦闘が始まるとコメントの勢いがどんどん活発になっていく。戦闘中で詳しくは見れてないけど、視界の端で勢いよく流れていくのが見えて嬉しくなる。
剣による大群が魔物に降り注ぐ。それを牛頭の魔物は持っている三又の槍で次から次へと叩き落していく。しかし、その中で打ち漏らした剣が魔物の身体を傷つけていく。
ていうかどれだけ堅いの。あれだけ食らっても全然倒れる気配ないんだけど。
宙に舞う剣の他に私は自分の両手にも二つの剣を生み出す。普段の私は剣なんて使えないけど、この歌を使っている時だけどうしてか剣の扱いが手に取るようにわかる。
周囲に飛び交う無数の剣と共に魔物に向かって駆け出していく。そして魔物の近くまで来ると、周囲の剣を一斉に打ち出し、それと共に私も魔物へと斬りかかる。
無数の剣で相手の意識をかく乱して私が止めを刺す、そんなシナリオのつもりだったけど、魔物はそんな私の想定を裏切り、自身を襲う無数の剣を完全に無視して私の方へと槍を振りかざしてきたのである。
次々と魔物の体に突き刺さっていく無数の剣。それらに苦悶なうめき声を上げながらも大きく槍を振りかざす魔物に対して私はひらりと横へとかわすと、そのまま持っている剣を全力で振りかざす。
その瞬間に私が思ったのは、硬すぎる、ってこと。
全然剣が肉を断つ感触が無い。これ本当にダメージ与えられてるの? すんごい勢いで斬りかかったのにそんな疑念さえ浮かんでくるほどに相手の防御が硬すぎたのだ。
「駄目ですね。硬すぎます」
歌で強化されても元の私の筋力が大したことないからこうなるんだろうな。だとしてもどれだけ筋肉をつければいいのやら。
一応、剣で突き刺されて怯んでいたり、傷を負っていたりするから効いてはいると思うんだけど……。
『マナの攻撃でも駄目とかヤバすぎwwww』
『ちょっと待って、本当に何なのこいつ』
『絶対レベル10はいってそうだよな。レベル10の魔物なんて観測されたのいつぶりだよ』
『確か十年以上前に出た金色の龍で最後じゃなかったっけ?』
レベル10の金色の龍。私もテレビで聞いたことがある。確か、遭遇した探索者のチームの内の一人が奇跡的に生還出来たことでその存在が確認されたって言う。
キャプテンと呼ばれ、最強の探索者として知られている如月さんがその名を世間に知らしめた事件だったはず。そして死闘の末に龍を討ち取り、日本で初めて『星持ち』になった。
「剣で無理ならこの歌で。『いばらの道』」
歌い始めると同時に地面から生えた極太のいばらが私を載せてさらに大きく成長していく。やがていばらが私を囲う。
この歌は他の歌とは違い、攻撃と防御の両方を兼ね備えている。
同じくして魔物の周囲にもいばらが生えていき、それらがすべて魔物へと襲い掛かる。
魔物も槍で突いていばらを消し去ろうとするも、いばらが太すぎるせいか真ん中に穴が空くだけで、攻撃の勢いを止めることはない。
そのまま勢いよく魔物の体にぶつかると軽々と吹き飛ばしていくのであった。
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