第5話

 もう夕日は沈んだ。この線から先が夜だ。

 右に曲がって道なりに進む車。

 最短距離で自宅に向かっているのにまだ着かない。


 雨が降り出して、車窓に筋を作る水滴が乱反射する。

 後ろに別の車が付いてきた。今日は無理だろう。流石に事故る予兆が出るだろう。 例のジンクスにのっとって警戒すべきだ。


 そう思うのに、後続の車の運転手の顔がはっきりルームミラーに映る。

 僕と同世代の会社員風のスーツの男性。


 ほら見えるだろう、危険じゃないよ怖くないよ、安心したろう? こっちにおいで、と呼ばれた気がした。いや嘘だけど。


 小さなバックミラーが映し出すもの。現実を切り取って単純化したそれをただただ描き出したくなる。


 緊迫感を煽る妙な安心を覚える。その矛盾も今なら歓迎したい。


 信号が青になった。発進。


 家まで待ちきれない。けど、この書きたい欲にもう少し浸っていたい。


 この単純な矛盾をどう言葉に変換しようか、ひたすら素直に胸が躍った。



  終





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