第4話
心の中でそんな事をつらつら並べて、ほうっ、と一息吐いた。
丁度のタイミングで信号に捕まって、僕はガムを一つ包みを開けて頬張った。
つん、と強いミントの香りが鼻を抜けていく。舌がヒリヒリ痺れる。
で、何の話だっけ?
ああ、そうそう、僕はこう言いたかった。
僕の目に常にバックミラーが備わっていたらいいのに、と。
バックミラー越しの景色は反転している。狭い小さな範囲に限られる。
雨が降っていれば歪んで滲む。
鏡には小さな人間の肩から上くらいが映る程度。
目を凝らしても男か女か若いか年寄りかも分からない時だってある。
その程度の判断基準で僕は危険度を勝手に決め付ける。
いいや、だからこそ、と言えるのだ。
だからこそ単純に見て、判別しやすい。あくまで僕には、だけど。
細部が見える方がかえってその人が危険かどうか、関わり合いになってもいいのか、判りにくい気がする。
こんな考えだから小説世界の、現実より記号的に単純化されて、だから全体像をざっくり捉えやすいキャラクターたちに、僕はこんなにも好意的なんだろうな、と思う。
不純物やら無意味な不協和音がない感じが好ましい。
現実を生きる僕らは単純な話を複雑そうに見せるのが上手なものだから困る。
現実にもバックミラーがあれば僕は細々した言動に囚われて大枠を見誤ったりしないのに。
見誤っている前提で生きている現実に不満があったから、僕は良い意味で程よく性格が捻くれた。
単純化しているからこそ、ざっくり大袈裟大雑把に真摯である物語に魅かれることを辞められないんだろう。
狭い窓を世界の全てという事にして、ただ必要な要素を抽出する。
主人公の顔が見えれば大成功。見えないならボツ。
うふふ作者って身勝手だなあ、とふんぞり返っていると、たまに背後の奥行きが映り込んできて、ドキッとさせられて見事に足元をすくわれる。
そういう鍔迫り合いに似た緊迫感を、あの頃は受け取っていた。
そんで今日も、懐かしいまである時間が呼び戻された。
それがまだ僕に宿る余地があったらしいことに驚く。
自分はつまらないとか量産型の人間だしなとか言って育んできた納得を、物凄い勢いで蹴散らしてしまう衝動。
自分の中から湧き出るオリジナルなものにつまらないも何もない。
書いて吐き出さないと窒息するから僕はともかく書くんだろう。
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