第4話

 とまあ、こんな調子で、その依頼は解決した。その報告書を今ワープロで打っているところだ。


 解決した、というのは正確ではない。勝手に解決してしまったという方が正しいだろう。


 翌日、依頼者の下に兄は帰ってきたそうだ。その兄が話すところによれば、酒に酔った勢いで女性に声をかけた直後、風に襲われた。それ以降の記憶はほとんどない。あるのは、自分が女性となってしまい、自らの妹に邪険に扱われてしまうという夢か現かもわからないようなものだったらしい。


 私と依頼者は顔を見合わせたものだ。その夢は現実で起きたことそのものであり、やはり、その女性というのは、男性だったということになるのだから。


 しかしながら、その方法はいまだ不明だが心当たりがないわけではない……っと。


 ひと段落着いたところで私は大きく伸びをする。


 と、書斎机に湯呑が置かれた。


 視線を隣へと向けると、少女が立っている。依頼者の少女ではない。


 あの夜であった、神様を自称している方だ。そんな彼女は、お盆をぎゅっと抱きしめ、私へと卑屈な笑みを向けてくる。


「ど、どうぞ」


「ありがたいが、どうして君がここにいるのか、その理由を教えてほしいのだが」


「名探偵であらせられるあなたの助手に――」


「あのね。心無いことを言うならもっと自信満々に言ってくれないと」


 少女の――名前はヒメというらしい。探偵事務所にやってきた初日に名乗ってくれた。神様なら、ヒメというのもわからないでもない。もっとも、偽名かもしれないが。


 ヒメは、そっぽを向いた。


「……復讐です」


「復讐ってなんのさ」


「百合が嫌いって言ったじゃないですか! 覚えてないんですか、バカですかアホですよね!」


「いきなりヒートアップしないでもらえるか。それに、覚えているよ」


「す、すみません。でも、それが腹立たしくて……」


「だからって、私の探偵事務所に来ることはないだろう。しかも助手になるって。呪うとか、もっとやり方はあったろうに」


「もう呪っていますよ?」


 実にあっけらかんと言うものだから、私はスルーしてしまいそうになった。


 信じられなくてヒメを見れば、瞳の中の昏い輝きが、その強さを増していた。


「本当に?」


「かみさまに二言はありません」


「ちなみにどんな呪いを……?」


「それはもちろん」


 ばーんと扉が開いて、この前の依頼者がやってくる。その目には涙が浮かんでおり、私に近づいてくると、抱きしめられてしまった。


 困惑することしかできない私の耳元へと、ヒメの口が近づいてくる。


 ――あなたが百合に巻き込まれるという呪いです。


 おおよそ神様が出すとは思えないような声で、ヒメは笑った。


 すっと離れていくと、口元におぼんを当て、ごゆっくり、と足早に去っていった。


 依頼者に抱きつかれた私は、追いかけることもできずに、その背中を見送ることしかできなかった。


 何が神様だ。


 私からすれば、悪魔だよ。

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自称神様の少女に付きまとわれることになった件について 藤原くう @erevestakiba

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