第二十五章

「はあ……」


 校門を出た私はため息をついた。


 寄りたいところがある、と言ったものの、どうやって帰ろう。


 近くの図書館にでも寄るか、と思い、私は図書館への道に向かった。




 図書館に入り、小説がたくさん置いてある場所に向かう。


「あ、これ、お気に入りの……」


 単行本を手に取る。


 中二の頃から呼んでいた小説だった。


 でも買うことはせず、いつも図書館で借りて読んでいた。


「そういえばこれ、高校の図書室にもあったっけ……」


 作者さんもこの小説も、あまり有名ではないが、とてもいい物語だと私は思う。


 私はこの単行本を借りて、図書館を後にした。




 結局私は家まで電車で帰ることにした。


 家に着いた頃にはもうへとへとだった。


「ただいま……」


 玄関に倒れこむ。


「おかえり、千雪。……どうして倒れてるの?」


 リビングから出てきたお母さんが不思議そうに私を見つめる。


「ううん」


 洗面所で手を洗い、自室へ向かった。




「ただいまー」


 図書館で借りた小説を読んでいると、一階から真夏の声がした。


 しばらくして、ドアがノックされる。


「はーい」


「千雪、帰ってたのか」


「うん、おかえり。どこ行ってたの?」


 首を傾げて訊ねる。


「あー……美月と公園で話してた」


「ふーん、付き合ったの?」


「はあ!?」


 真夏が「別に、そんなわけないし!」と声を荒げる。

 照れ隠し?


「夕飯もうすぐでできるから下りてきて、って母さんが言ってたから」


 彼が照れ隠しなのか、話を逸らせた。


「わかった」


 そうして、彼は私の部屋のドアを閉じた。




「じゃあ、よろしくね」


「わかった。いってきます」


 家を出る。


 お母さんにおつかいを頼まれたのだ。


 今日は土曜日。十一月の冷たい風が通り抜ける。

 寒い。

 暖かく、ふわふわのジャンパーを着てきてよかったな、と思った。


「えっと、スーパーでにんじんと、じゃがいも、あと……」


 メモを見ながら独り言を呟く。


 その時、落ちていた石につまずき、体が倒れた。


「いっ、たあ……」


 起き上がろうとするものの、足をくじいてしまい、なかなか起き上がれない。


「あっ……!」


 横を見て、私は目を丸く開いた。


 横には、こちらに走ってきている車。


 やばい、ぶつかる。


 助けて。


 恐怖で声を出すこともできずに、私は動けずにいた。


 このまま死ぬのかな、と回らない頭で考えた。


 ああ、私は、もう……。


 その時だった。


「——千雪‼」


 その声に、私は勢いよく振り向いた。そこには、私の方に走ってきている、零夜がいた。


「れ、零夜……っ‼」


 私は大きな声で叫ぶ。


 零夜が駆け寄り、私の手を掴んで歩道へと引き上げた。


 その瞬間、大きな音でクラクションを鳴らした車が通りすぎた。


「千雪、危なかったじゃないか!」


 彼がこれまでにないくらい大きな声で言った。


「もしも死んでいたら……‼」


 彼の姿が涙で滲む。


「ご、めん……」


 私は涙を堪えられずに、声を押し殺して泣いた。


 彼が私の頭を撫でてくれる。


「よかった、無事で……」


 ぎゅっ、と彼が私を優しく抱きしめた。




 私が泣き止んだ頃、私は少し気になる疑問が浮かんだ。


 なんで、彼はあんな場所にいたのか?

 あそこは人気の少ない道路だ。それとまず、彼の家は遠い。徒歩で一時間半ほどかかるのに。なんで? それに、なぜあんなタイミングで?


「ねえ、零夜」


「ん?」


「零夜は……なんであんなところにいたの?」


 彼は少し戸惑いの色を顔に浮かべ、「たまたまだよ」と笑みを浮かべる。


「……だ……」


「え?」


「嘘だ……たまたまじゃないでしょ?」


 私は彼をじっと見つめた。


「……」


「……」


 沈黙が訪れる。少し嫌な感じがした。


「実は、俺……」

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