第二十二章

 あれから一週間が経った。


 父と母の逮捕、戸籍変更など、色々なことをしていた。


 そして今日、また高校に通い始める。


「いってきます」


「いってらっしゃい」


 ローファーを履き外に出ると、家の前で私を待っていた真夏が振り向いた。


「行こう」


「うん」


 真夏が乗るバイクの後ろに私は乗った。


 ここから高校は遠いので、真夏のバイクで行くことになっていた。

 真夏はクラスが違うけど同じ高校に通っていたので、これからは彼と高校に通うことになるだろう。


 雑談をしてバイクを走らせていると、一時間弱で高校に着く。

 家から高校までは一時間ほどバイクで走らなくてはいけなくて少し遠いが、私は別に構わなかった。だって、今から零夜に会える。そのことがすごく嬉しかった。


「千雪、なんか嬉しそうだな。仲いい友達とかいるのか?」


「あ、うん。いるよ」


 私は真夏の質問に頷く。


「そういえば、なんで真夏はこんな遠い高校に通ってるの?」


 昨日、愛彩さんに「真夏と千雪は同じ高校だから、千雪は真夏の運転するバイクの後ろに乗って通学してね」と言われた時からずっと気になっていた。


「あー、よく言われるんだけど……まあ、この高校の偏差値がちょうどよくて……って感じかな……そんな感じ……」


 さっぱりとした真夏には珍しく、少し言葉を濁らせていた。


「ふうん」


 私は小さく答えた。


「ほんとは?」


「は?」


「嘘でしょ、今の答え」


 じっと真夏を見つめる。


「ちぇ、見抜かされたか……誰にも言うなよ? 父さんと母さんにも言ってないんだから……」


「わかった」


 彼は「実は……」と緊張した顔つきで口を開いた。


「この高校に、好きなやつがいて……幼稚園の頃から片思いしてる……」


「えっ、幼稚園の頃から!?」


 驚いて思わず声を上げた。そんな答えが返ってくることは予想外だった。


「しっ、誰にも言うなよ」


「その子の名前は?」


 なんとなく気になって訊ねてみた。


「あー……違うクラスなんだが……渡辺美月っていう……」


「はあ!?」


 目を見開いて、私はさっきよりも大きな声を上げた。


「ご、ごめん」


「いや、その反応……渡辺のこと知ってるのか?」


「知ってる、知ってる……てか、同じクラス……」


 真夏は失恋するだろう。だって、渡辺さんは零夜と付き合ってるんだから……。


 でも、そんなことを言うときっと真織が絶望してしまうと思い、そのことは言えなかった。


「そうなのか!? ちょっと千雪、俺と渡辺が話せるように、なんとかしてくれないか!?」


「え、いや……」


 無理だよ、普通に。


「考えとく……じゃ」


「また帰りにな」


 真夏と教室の前で別れ、私は深呼吸を一つして、教室に入った。


 みんな私には気づかず、友達と喋っている。

 だが私の席は中心部にあるので席に向かっていると、クラスメイトがこちらを向く。


 私は少し俯きながら席に座った。


 教科書やノートを机にしまい、読みかけの文庫本を取り出す。

 なんだか周りの視線を感じて落ち着かない。


「え、千雪?」


 ばっと声をかけられた方を向く。そこには、零夜がいた。


「零夜……」


「高校、また通うことになったんだ」


 零夜の問いかけにこくりと頷くと、彼は嬉しそうに笑った。


「今日席替えがあるらしいんだけど、隣か、近くの席だといいな……」


 独り言のように彼が言った。

 その言葉に、心が躍る。


 その時チャイムがなり、彼は席に着いた。


 あ、渡辺さん。


 零夜の隣に座っている渡辺さんは、彼と目を合わせることなく、挨拶することなく、そっぽを向いている。


 喧嘩しているのだろうか? なにかおかしい。


 私はそんな疑問を感じながら、教室に入ってきた担任に視線を向けた。

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