第二十章

「よし……」


 専用キットが届き、それを終えた。そして今結果が届き、それを見るところだった。


 緊張で大きく音を立てる心臓を抑え、検査結果を覗いた。


「——シロ、だ」


 心の底から安堵が沸き上がってくる。くらくらして、今にでも倒れそうだった。


「じゃあ、私達は……親子だったんだね……」


 愛彩さんの言葉に、涙が溢れた。


 シロなら親子関係がある。クロなら親子関係がない。

 私と愛彩さんで検査したが、検査結果はシロだった。つまり、親子関係がある。だから、私の本当の家族は彼女達であり、私の本当の名前は千雪なんだ——。


 私の名前は、霞瑞千雪。なんだかしっくりくる。


「また会えて嬉しい、——千雪」


 愛彩さんが私を抱きしめる。


「よかったな……」


 隣で少しもらい泣きしていた真夏さんが私の頭を撫でてくる。


「はるちゃんは、僕たち霞瑞家の家族だ」


 真織さんが私の手をぎゅっと握った。


「うん、うん……ありがとう……」


 私は涙声になりながらそう言って、声を上げて泣いた。


 真織さん、愛彩さん、真夏さんの家族になれて、本当に嬉しかった。

 安心と、嬉しさと、懐かしさと、澄川家の父と母への恨みと、色々な感情が爆発して、皆の優しさが暖かくて、私は涙が枯れるまで泣き続けた。




「あの、私ってみんなのこと……なんて呼べばいい……?」


 泣き止んだ後、暖かい目で私を見守る愛彩さん達に訊ねてみた。


「普通にお父さん、お母さんでいいよ」


「うん。真夏さんは?」


 一番気になっていたことだった。

 真夏さんは同い年なので、双子ということになるだろうから、名前で呼べばいいのか、お兄ちゃん——人にお兄ちゃんと呼んだことがないので少し恥ずかしい——と呼んだ方がいいのか。


「真夏と千雪はね、真夏が先に生まれたけど、名前で呼び合ってたよ」


 へえ、と返事をする。なら真夏と呼べばいいのか、と思った。


「じゃ、じゃあ……」


 まずは真織さんのほうを向く。


「お父さん」


「うん」


 次に、愛彩さん。


「お母さん」


「ありがとう」


 次に、真夏さん。


「真夏」


「千雪」


 みんなで抱きしめあった。みんなの匂いは懐かしくて、安心する匂いだった。




 目を冷やし、腫れが収まったところでLINEアプリを開いた。


『急ぎじゃないんだけど、知らせたいことがあって。今日会える?』


 そう零夜に送信して、スマホを閉じてから本を読み始める。


 十分ほどして返事が届いた。


『用事も特にないから、会えるよ』


『じゃあ、今日の四時に高芽たかめ公園で』


『わかった』


 高芽公園とは、ここから徒歩五分ほどの場所にある、高台の公園だ。


 今の時刻は三時半。


 準備をしようと思い、私は本に付箋を挟んでクローゼットのドアを開けた。

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