第十六章

 父、澄川大知だいち

 母、澄川和泉いずみ


 その字を見た瞬間、絶望した。


 私って、父と母の子供なの?


 信じられなかった。


「そういえば、戸籍上はるちゃんの両親がこの二人ってことになってるだろうから、はるちゃんが誰の子供かを調べる方法は、これじゃないのかも……」


 愛彩さんが言った。


「確かに……」


 私も冷静になる。


「じゃあほかに、どんな方法がある?」


 真夏さんが言った。


「難しい……」


 真織さんが言った。


 三人で悶々と悩む。


「とりあえず、帰ろうか……」


 真織さんの言葉に、私達は頷いた。




 帰ってから、部屋でずっと考えていた。


 どうすれば、私の親がわかるのか。

 私の親は、父と母なの? 真織さんと愛彩さんなの?

 どこかに私達の血の繋がりを証明できるものはないの?


 はっとした。


 そうだ。

 私達の血の繋がりを証明できるものを見つければいいんだ。


 子供には、親から遺伝するがあるはずだ。


 私はスマホを取り出し、【子供に遺伝するもの】と検索した。


 性格が約五十%で、知能や学習能力が約七割、運動能力が約六十%……。


 必ずではないらしいが、もちろん可能性はある。


 私は一階に下りて、リビングのドアを開けた。

 食器洗いをしている愛彩さんに「愛彩さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」と声をかけた。


「どうしたの?」


「えっと、愛彩さんの性格は?」


「え、私? うーん……」


 愛彩さんが顎に手を当てて考える。


「少し控えめだけど、優しくて大人っぽい。あと気遣いができて、可愛い」


 振り向くと、振り向くと、にこにこと微笑む真織さんがいた。


「あっ、真織……!」


 愛彩さんが恥ずかしそうに真織さんを睨む。


「真織さんの性格は?」


「やっ、優しくて、あと、すごいあの、かっこいい!」


 愛彩さんが負けじと声を上げた。


「ははっ」


 真織さんがおかしそうに笑う。


 私の頬も自然と緩んだ。

 仲がいいなあ、と思う。


「はるちゃんは愛彩と同じで可愛くて、優しくて、あと大人っぽいし……愛彩と似てるな」


 いい結果だ。やっぱり私は真織さんと愛彩さんの子供なのだろうか?


 私は二人に「もう少しいい?」と首を傾げて訊ねた。


「うん」


「何?」


「二人の知能とか、学習能力、教えて」


 私が訊ねると、真織さんが口を開いた。


「愛彩は頭はいい方だよ」


「真織も頭いいよ」


「へえ……」


「はるちゃんは?」


「私? うーん……高校は偏差値72のところに通ってるけど……」


「おお、頭いいじゃん」


「そう?」


「私達と同じくらいだねー」


 愛彩さんが笑った。


 ちょっと回答がずれてる気がするが、まあいいだろう。


「えっと、じゃあ最後に運動能力……」


 すると、また真織さんが先に口を開いた。


「愛彩はちょっと運動神経悪かったよな」


「あー、そうだったね……真織は普通に良かったよ」


「私は普通」


 ふむふむ……。


 遺伝、してる……?


 私は「ありがとう」と言って、自室に戻った。


 これは、親子でもあり得る……?

 あり得るよね?


 心の中で少し浮かれる。


 あとは何をしようか。


 千雪さんが好きなものと、私の好きなものを比べてみる?


 そうしよう、と私はスマホのメモアプリをタップした。


〖はるの好きな物


 プリン

 アイス

 オムレツ


 読書

 スピード(トランプ)


        など〗


 とりあえず、これでいいだろう。


 千雪さんの好きな物も聞かないと。

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