第十五章

 お風呂上がり、ベッドに倒れ込んだ。


 今日はとても刺激的な日だった。悪い意味で。


 ふぅ、とため息をついて目を瞑る。


 あぁ、そういえば、明日市役所に戸籍謄本を取りに行くんだった。

 そう考えただけで、なんだか緊張してきた。


 枕に顔を埋めていると、スマホにLINEの着信が来た。


「ん?」


 顔を上げ、スマホを手に取る。


 それは、石黒くんからだった。


『久しぶり。今日会えて、嬉しかったよ』


 そこまで読んで、胸が高鳴った。


 てっきり私はもう石黒くんへの想いを振り切っていたと思っていたのに、実はまだ私は石黒くんが好きなんだ。


 でも、石黒くんは私が好きじゃないから。


 きっともう、石黒くんと渡辺さんはもう、付き合っているのだろう。


 そう考えて、気持ちが沈んだ。

 私は切り替えるように頭を振り、視線をスマホに落とす。


『今度、一緒にどこか行こうね。空いてる日とか、ある?』


 私は小刻みに震える手を横目に、文字を打った。


『久しぶり。大体いつでも空いてるよ。でも明日は無理』


 送信をタップして、私は一階に向かった。まだ髪を乾かしていないし、歯を磨いていない。


 もう寝たい、という気持ちを抑えて、私は目を擦った。




 アラームが鳴った。


 私は目を覚ます。


 アラームを止め、起き上がって伸びをした。

 カーテンを開ける。


「いい天気だなぁ」


 そう呟いて、スマホを見た。


「あっ、石黒くんから……」


 LINEを開く。


『じゃあ、来週の土曜日でいい?』


 そして、『おやすみ』とも届いていた。


 昨日の夜に届いていたLINEだった。


『おはよう。土曜日、空いてるよ』


 送信してから、私は一階に降りた。




 着替えに部屋に戻る。


 LINEが届いていた。


『わかった。じゃあ、駅前の〔自然カフェ〕で。楽しみにしてるね』


 自然カフェとは、駅前にある自然を大切にしているカフェのことだ。


 噂でしか聞いたことはないが、カフェの外に花や植物が植えられていて、店内には観葉植物などが置いてあるらしい。


 私も気になっていて、いつか行きたいな、と思っていた場所だった。


 私は自分の気持ちに従って、『楽しみにしてる』と送った。




 着いた。


 市区町村役場に。


「なんか緊張するね……」


 愛彩さんが辺りをきょろきょろと見回しながら言った。


「うん……」


 私は小さく頷いた。




 手続きは済ませた。


 そして今、私の手元には戸籍謄本がある。


 動悸がする胸を抑え、深呼吸をしてから紙に視線を合わせた。


 名前、澄川はる


 生年月日、平成〇〇年 二月 十日


 そして、父と母の欄には——

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