第十四章

「ふー、疲れたー」


 家に帰り、私達はリビングに倒れこんだ。


 あれから母は警察に連れて行かれた。

 私達はとりあえず家に帰っていいと言われ、家に帰ってきた。


 明日市区町村役場に行き、戸籍謄本を取りに行く。


「今日は外食にしようか」


 真織さんが提案する。

 もちろん、愛彩さんと真夏さん、私も賛成だ。




 徒歩五分。近くのファミレスに着いた。


 混んでいたので、少し待ってから呼ばれ、席に着いた。


「久しぶりに来たなー、ここ」


 真夏さんが辺りを見回しながら言った。


「小さい頃よく行ったよね」


 思い出話をしながらメニューを見る。


 真織さんがとんかつ定食。

 愛彩さんがナポリタン。

 真夏さんがドリア。

 私がチーズハンバーグを頼んだ。


 みんなで飲み物を取りに席を立つ。


 私はトイレに行きたかったので、先に飲み物を持って席に戻ってて、と行ってトイレに向かった。


 トイレを済ませ、飲み物を取りにドリンクコーナーへ行く。



 コップを一つ持ち、何を飲もうか、と悩む。


 ぶどうのスカッシュもいいし……、あ、メロンソーダもいいなぁ……、と頭を悩ませる。


「え、澄川さん?」


 その瞬間、心臓がどくん、と脈を打った。


 聞き覚えのある声に、ゆっくりと振り向く。


「い、しぐろ、くん……」


 ああ、なんで会ってしまったんだ。


 会いたくなかったのに。


「久しぶり」


 彼はにっこりと笑った。


「うん……」


 私は無理やり笑みを浮かべた。


「元気にしてた?」


「……うん……」


「急に学校来なくなったから、心配したよ」


「あ、うん、ちょっと……」


 笑みを浮かべるのが辛くなってきた。


「い、石黒くんはなんでここに? 家から遠いよね?」


 なんとなく疑問に思ったので訊ねてみた。


「今日は親が仕事で家にいないから。一人で散歩してたらお腹が空いて、ここで夕飯を食べようと思ったんだ」


「そうなんだ……」


 なんて運の悪い日だろう。


「澄川さんはなんでここに?」


「えっ」


 突然質問を返されて驚く。


 どう答える?


 たまたま?

 石黒くんと同じ?

 知り合いと来た?

 家族と来た?

 友達と来た?


 頭の中で言葉がぐるぐると回る。


 お願い、どこかに行って。


 そんな無茶な願いが頭に響いた。


「あー、たまたま……」


「そう」


 彼は小さく首を傾げた。


「あ、そういえばこの前澄川さんに電話したんだけど、もしかして、連絡先削除した?」


 バレた、と思った。でもこの場合は言い訳が通じる。


「も、もしかしたら間違えて削除したかも……」


 驚いた人を装い、慌ててスマホを確認する。


「あ、間違えて削除したっぽい……」


「やっぱり。もう一回交換しようか」


 え、と目を見開く。


「どうした?」


「う、ううん……なんでもない……」


 連絡先を交換する。


「澄川さんって誰かと来たの?」


「えっ、あ、うん、し、知り合いと……」


 慌てて答える。


「そっか。なら一緒に食べれないか」


 知り合いと来た、と答えて正解だったようだ。


「じゃあ、ありがとう。今度一緒に食事とか行こうね」


「う、ん……」


「またね」


「またね……」


 石黒くんが去った後、どっと疲れが押し寄せてきた。


「疲れた……」


 そう呟いて、ぶどうスカッシュをコップに注いだ。


 席に戻る。


「あ、はるちゃん。遅かったね」


 ナポリタンを食べている愛彩さんがこちらを向いた。


「はは、お腹痛くて……」


 言い訳をする。


「そうだったの? ごめんね、先に食べちゃって……」


 愛彩さんが申し訳なさそうに眉を下げた。


「あ、それは大丈夫……」


「そう? 良かった……。あ、料理冷めちゃうよ」


「うん、いただきます」


 私は手を合わせてから、チーズハンバーグを一口食べた。


 チーズハンバーグは少し冷めていたせいなのか、石黒くんと話した後のせいなのか、あまり美味しくはなかった。

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