第十二章

 めまいがしたが、私は構わずテレビを見た。


 画面にはまだ、千雪さんの姿が映っている。


『千雪さんを見かけた場合、保護した場合は、このお電話番号に電話をおかけください』


 画面に電話番号が映った。


 知らせた方がいいのだろうか、と思った。

 千雪さんの姿が私の小さい頃と似ていることを。


 言った方が、いいのだろうか?


「あ、愛彩さん……」


 俯いている愛彩さんに声をかけると、「ん?」とこちらを向いた。


「じ、つは……」


 ふぅ、と深呼吸してから、意を決して口を開いた。


「千雪さんの姿って、私の小さい頃と似てて……ううん、同じなの」


「……え?」


 愛彩さんが目を見開いた。


「ど、どういうこと……? 冗談?」


「ううん、本気……」


 私はポケットからスマホを出して、写真アプリを開いて【子供の頃】と表示されているアルバムを開き、一つの写真をタップした。


「これ……」


 愛彩さんに見せたのは、千雪さんと同じく髪を二つに結んでいる私の姿。

 これは小二の頃の写真だった。


「小学二年の頃の写真……」


「……もしかしてはるちゃんって、……千雪……?」


「可能性はあると思う。……それと私、愛彩さんに言いたいことがあるの」


 私は愛彩さんに全部話した。


 両親に無視をされ、家事を全て押し付けられていること。

 限界を迎えていたこと。

 それらが原因で家出をしたこと。

 今思えば、小二よりも小さい頃の記憶が無かったので、私が千雪さんでもおかしくはないこと。


 愛彩さんはびっくりしたように目をまん丸にした後、「そうだったんだ……」と言った。


「話してくれて、ありがとう」


「うん……」


 私には、これくらいのことしかできないから。


「今週末とかに、はるちゃんの家にみんなで行こうか……」


「うん……」


 私は小さく頷いた。


「ふー、勉強疲れたー」


 真夏さんがリビングに入ってくる。


「あれ、なんか雰囲気暗くね?」


 彼は眉をひそめて愛彩さんの隣に座る。


「実は……」


 愛彩さんがこれまでのことを真夏さんに説明してくれた。


「えっ、それってやばいじゃん……」


 真夏さんが考え込むような仕草をしてから、顔をあげた。


「もちろんだけど、俺も行くよ。はるの家」


 にんまりと笑う彼は、なんだかとても頼もしかった。




 夜七時。


 玄関のドアが開いた。


「あ、父さんだ……」


 テレビを見ている真夏さんが玄関を見た。


 そういえば、彼の父——真織さんに会うのは、初めてだ。


 急に心臓がどくん、と大きく脈を打った。


 緊張する……。


「ただいま」


 リビングのドアが開いた。


 私服姿の男性が入ってきた。真織さんだ。


 綺麗な黒髪に、優しそうな目元。

 整った顔立ちの男性だった。


「おかえりー。真織、この子がはるちゃん」


 愛彩さんが私の肩を叩いた。


「君がはるちゃん? よろしくね」


 にっこりと真織さんが笑った。


「よ、よろしく……澄川はるです……」


「愛彩から話は聞いてるよ」


 そうなんだ……、と私は小さく言った。


「あの、真織さんって、お仕事はなにをしてるの……? あっ、差し支えがなければ……」


「あぁ、僕はレストランで働いてるよ」


「へぇ……」


 少しびっくりした。


「小さい頃から料理が趣味だったから」


「あの、いつか、そのレストランに行ってもいい……?」


 小さく首を傾げる。


「もちろん、大歓迎だよ」


 真織さんが嬉しそうに笑った。


 どんな料理だろう、とわくわくしながら私は彼に「お疲れ様」と声ををかけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る