第七章

 電車に揺られて二時間ほど。どこか知らない田舎町にたどり着いた。


 そこは近くに海があって、空気が美味しくて、自然がある、ゆったりとした町だった。


 浜辺に下りて、海を眺めた。

 海は絵のように綺麗だった。


 ローファーと靴下を脱いで、足を海に浸けた。ひんやりとしていて気持ちがいい。


 少し肌寒くなってきたので、私はタオルで足を拭いてからローファーと靴下を履いて、浜辺に座る。


 不意に、かつん、と指先になにか硬い物が手に当たった。


 視線を向けると、真っ白な貝殻があった。

 貝殻を手に取る。


 貝殻を見ていると、あの出来事を思い出した。


     △▲△


 あれは、中一のことだった。


 友達が作れなくて、一人きりだった。

 そんな中、クラスの一軍女子の野谷恵美のだにめぐみという女子が、私に声をかけてくれた。


 恵美のコミュニケーション能力のおかげで、私はすぐに恵美と親しくなった。


 彼女は私によく声をかけてくれた。

 『放課後カラオケ行こー』とか、『一緒にお昼食べよう』とか、『今度の休日一緒にどっか行こうよ』とか。

 彼女には友達がたくさんいたから色々なタイプの子がいた。苦手なタイプの子だっていた。でも、恵美と遊べるなら、そんなことどうでもよかった。


 そしていつの日か、恵美は私に貝殻をくれた。


 真っ白な貝殻。


 『家族で海に行った時に見つけて、はるにあげたいな、って思って』と彼女は笑っていた。


 私はその貝殻を笑顔で受け取った。


 だがそんな中、事件が起きた。


 私はある日急に、恵美や彼女の友達にいじめらるようになった。


 上履きがなくなっていたり、ノートを盗まれたり、その盗まれたノートに〝バカ〟や〝男に媚び売んな〟や〝きもい〟などと書かれた。新しいノートを買っても、それの繰り返し。


 なにか恵美の癪に障ることをしてしまったのだろうか、と私は悶々と悩んでいた。


 そんな時、私は空き教室で恵美と彼女の友達が話しているのを聞いてしまった。


『あー、はるムカつくー』


『ほんとそれ。あ、恵美ってなんではるのこといじめてんだっけ?』


『えっ、何回も言ったじゃん。もう忘れたの?』


『うん』


『はー、だから、森田もりたと二人で話してたからいじめてんの。思い出させないでよ』


『ごめんごめん。そうだった。てか、早く森田に告ったらー?』


『うちはあっち側から告白されんのがいいのー』


 あははっ、と楽しそうに彼女達は笑っている。


 私が森田くんと話していたから、私はいじめられているのか。


 やっと、理由がわかった。


 あれは、私と森田くんが日直になって、話していた時だ。


『俺、野谷に告白しようと思うんだ』


 彼は照れくさそうに言っていた。


『えっ、お似合いだと思う!』


 私はにっこりと笑って言った。


 もちろん、私は森田くんに好意は寄せていなかった。友達としては好きだった。彼は話しかけやすい性格だったから。


 その現場を、恵美が見ていたんだ。


 そしてその時、私は知った。


 期待しても、裏切られるだけ。

 期待すればするほど、裏切られた時の絶望が大きい。


 だから私は、誰かを期待するのをやめたんだ。


 そして恵美が運よく親の都合で海外に引っ越した。

 そこで、いじめが終わった。


 私は彼女が海外に引っ越した日、その貝殻を空に向かって投げた。

 それからその貝殻は手元に帰ってきていない。


     △▲△


 私は貝殻をポケットにしまい、歩き出した。


 家に、帰ろうと思う。


 だが、ここからが物語の始まりだ——




 目を覚ます。


 そこは満員電車の中だった。


 私は寝てしまっていたらしい。


 次の次で最寄り駅。


 一つ前の駅に着いた。


 何人か乗客が乗ってくる。


 そんな中、重そうな荷物を持ったお婆さんが目に留まった。


「お婆さん、この席どうぞ」


 お婆さんは驚いたような顔をしてから、困ったような笑顔をした。


「いえいえ。大丈夫です」


「私、次の駅で降りるので」


「あら、そうなの? じゃあ、ありがとう」


 そう言って、お婆さんは私が座っていた席に座る。


 駅に着き、私はお婆さんに小さく会釈をしてから電車を出た。


 外は真っ暗。もう十一時頃だから、当然だろう。


 私はまだ少し眠たい目をこすりながら、改札口を通り、帰路についた。

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