第四章

 まずは、自室でスクールバッグを置き、部屋着に着替えてから洗面所に向かう。


 手洗いうがいを済ませてから夕飯を作る。今日は簡単なそぼろ丼だ。




 作り終えた頃には、もう五時半過ぎ。

 時間が経つのは早いな、なんて思いながらベランダに向かう。


 私はベランダに出ると、時々思う。


 ここから飛び降りたら、楽なのではないか、と。


 でも。

 絶対に、飛び降りない。


 もしも私が飛び降りて、両親が喜んだら嫌だから。

 両親には、不幸になってほしい。


 そう思っている自分がいる。


 だから、私は飛び降りない。


 絶対に幸せになって、寿命を全うして見せる。


 洗濯物を畳み、自分の服はクローゼットへ。両親の服は部屋の前へ置いて、一階に下りた。


 自分の分のそぼろ丼を器によそい、食べ始める。


 両親はいないのに、早食い。


 器を流しに置いて、お風呂掃除を始める。




 お風呂掃除が終わり、リビングに戻ると母が帰ってきていて、そぼろ丼を食べていた。


 私はお湯はりボタンを押して、洗い物を始めた。


 母が食べ終わり、私が器を洗う。母はお風呂に入る。


 母がお風呂に入っているこの時間が、少しゆっくりできる休憩時間だ。


 テレビをつけると、バラエティー番組がやっていた。


 もう七時半だ。この時間帯はバラエティー番組ばかり。本当はニュースが見たかったな、と思いながらぼーっとテレビを眺める。


 八時過ぎ、母がお風呂からあがった。


 私はテレビを消してから自室に着替えを取りに行き、お風呂に入った。




「ふぅ……」


 ベッドに倒れこむ。


 お風呂もドライヤーも歯磨きも終わり、もう寝れる状態だ。

 だが、まだ課題を済ませていない。


 重い体を動かして勉強机に座る。


 時刻は十時。


 今日の課題は量が多い。


 ため息をついてから、私は課題を広げた。




「はっ」


 目を覚ます。

 そこは勉強机だった。


「……今、何時……」


 スマホを見る。


「え!?」


 時刻は六時半前。


「や、やばい!」


 慌てて椅子から降りる。

 一瞬で目が覚めた。


「どうしよう、朝食! えっと、食パン! 卵! あとベーコン!?」


 独り言を言いながら着替えて、顔を洗ってキッチンに立つ。


 食パンをトースターで二枚同時に焼く。


 フライパンを二つ出して、一つはスクランブルエッグ。

 もう一つはベーコン。


 フライパンの上で卵を混ぜて、混ぜて。

 スクランブルエッグの完成。


 ベーコンを焼いて、焼いて。

 焼きベーコンの完成。


 パンが焼けて、焼けて。

 トーストの完成。


 トーストの上に洗ったレタスとトマトを乗せて。ベーコンを乗せて。その上にスクランブルエッグ。


 それを二つ作れば、完成。


「あー、よかった……」


 膝から崩れ落ちた。


 父が下りてくる。安定の不機嫌顔。


 朝食とコーヒーを注いだマグカップを食卓に置く。


 私は安堵しながら洗面所に向かう。


 ……あれ?


 私の朝食は?




 ローファーを履いて、家を出る。


「おはよう」


 家の前に石黒くんが立っていた。


「あ、おはよう……ごめん、ちょっと寝坊しちゃって……」


「大丈夫。俺も寝坊した」


 さらっと石黒くんがそんなことを言った。

 「ほら、ここに寝癖」と彼は笑って言う。


 私もつられて、小さく笑った。


 すると彼がなぜだか驚いた顔をした。でも、一瞬でいつもの笑顔に戻る。


「学校に着いたら、水道で髪洗おうと思う」


「うん、そうしたほうがいいよ」


 私達は笑いながら、高校へ向かった。


 その時、一瞬視線を感じた。


 振り向くが、こっちを見ている者はいない。


「どうしたの?」


「……ううん」


 気のせいだったのかな、と思い、私は前を向いた。

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