爆弾
わたくし
研究室で
国立大学の地下研究室で青年セリザワは研究を続けていた。
我が国が「聖戦」と言う名の戦争を始めて4年近くが経っていた。セリザワの青春は戦争と研究漬けであった。大学の同級生の半数は「御国の為」と言うくだらない勇気によって短い命を散らしていった。
セリザワが今研究している物は、今次大戦で劣勢の我が軍が一発逆転する為の新兵器であった。基礎研究が終わり、試作品の作成と量産化の段取りを行っている所であった。
ある日、同僚が研究室に駆け込む。
「昨日の朝、敵軍が我が都市に新型爆弾を落として都市が壊滅状態になったらしい」
「たった一発で、半径2km内の建物が完全に吹き飛んでしまったらしい」
「我々の新兵器も早急に試作品を完成しないと……」
同僚の報告にセリザワは怒りの炎を燃やしていた。
「鬼畜の様な敵軍の新型爆弾め! 我々の新兵器が完成すれば全てが解決するのだ!」
セリザワの開発した新兵器は、まるで魂を悪魔に売った様な物であった。
『
コップ一杯の分量があれば、半径20km四方の酸素分子を短時間に破壊してしまう作用があった。
これを爆弾にして使用すれば、作用範囲内の生物は酸素を失って、あっという間に窒息死してしまうのだ。内燃機関の兵器も燃焼を失ってその場で停止してしまうのだ。しかも、雨や水を撒けば毒性を中和できるので、死体さえ片付ければそこにあった兵器や食料が再使用可能になるのだ。
「敵軍の放射性物質を使った爆弾に比べれば、我が軍の爆弾は『綺麗な爆弾』だ!」
「敵艦隊の上で使用すれば、敵艦隊をそのまま我が艦隊へ編入出来るのだ!」
次の日、ついに試作品が完成した。
試作品は3個のガラス製の玉の中へ封入してあった。もう実験をしている余裕は無い。同僚が、
「今日の朝、北の国が非戦協定を破って我が領土に侵攻を開始した!」
「そして、敵軍が新型爆弾をまた我が都市に使用した!」
と、言った。
セリザワは軍に試作品の完成を報告した。軍は直ぐに実戦での使用を指令した。
一つは守備隊が玉砕した南の島に。
もう一つは北の国が侵攻を始めた国境付近に。
残りの一つは敵軍が本土進攻した時に使用する為に。
作戦の為の人員や機材の手配が全て済んだ時に、研究室の全職員が中庭に集められた。ラジオを通して「畏きお方」の声が流れる。
「負けた……」
セリザワはがっくりと肩を落とした。自分が青春時代の全てを捧げて作った物が今、無駄になったのだ。ただ祖国の勝利を信じて一心不乱に研究を続けていただけなのに……
「俺の青春とは、一体何だったのだ?」
「戦争と研究に明け暮れる、それだけだった!」
「俺のしていた事は無駄だったのか?」
「結局、俺が手に入れた物は3つのガラス玉だけだった……」
「この3つの宝物は誰にも渡さない! これは俺の為に使うのだ!」
「もし再び戦争で若者の青春が蝕まれる時、俺の宝物がその世界に牙を向けるのだ!」
「その時まで、俺がこの宝を預かっておく!」
セリザワは新兵器の資料を全て廃棄すると、同僚や上司に何も言わずに去っていった。3つのガラス玉を持って……
やがて、裏山の防空壕で爆発音が響いた。人々が駆け付けると、防空壕の入口が手榴弾の爆発で塞がっていた。同僚や上司はセリザワが自身の責任を取る為に行った行為だと思い、掘り出す事もせずにそのままにした。
そして人々は、セリザワや新兵器、塞がれた防空壕などの事を忘れていった……
西暦2222年、我が国は無謀にも隣国との戦争を始めていた。
開戦当初は順調に戦線を伸ばしていたが、段々と押し返されてジリ貧状態になっていた。
「救国」と言う美名で多くの若者が戦地で散っていった。
軍は形勢逆転の為にあらゆる可能性を探っていた。偶然に過去の大戦での新兵器の文書が見つかった。
「地形や建物・兵器や物質に影響を与えず、生物だけを殺す『綺麗な爆弾』」
「その名を『
軍は行方不明の宝物を探すように探索をしていた。
やがて、セリザワが消えた防空壕にたどり着いた。塞がった入口を掘り出し、中へ入ると白骨化した死体と3つのガラス玉に入った薬品が見つかった。
首都の研究室で研究員が薬品を取り出そうとガラス玉を割った……
セリザワの憎悪が瞬く間に拡がっていった。
倒れた研究員によって残りのガラス玉も床に落ちて割れた。
セリザワが守ろうと努力していた我が国の為政者や軍指導者、名も無き市民や子供まで全ての人や生物が一瞬で息絶えてしまった。
Das Ende
爆弾 わたくし @watakushi-bun
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