虐待を受ける「僕」と、アパートの隣室に住む「彼」の織り成すヒューマンドラマです。
描かれていない部分は極めて広大で、しかしそれだけ深く物語が構成されており、著者様の並々ならぬ技量が遺憾なく発揮されているものとお見受けしました。
「僕」「彼」は、密かに交流を図るうちに、疑似的な兄弟とも親子とも言えるような仲になります。
物語は、あまりにも呆気ないということもできるかもしれません。しかし、主人公の一人称が「僕」から変わるラストを見るに、「僕」のやや歪んだ成長と、「彼」の優しさがにじみ出ているのが、実に切ない感動と余韻を残してくれます。
心身どちらでも、疲弊し、傷ついている方には、是非ご高覧いただきたいです。