エピローグ

 けいとマリが時代の調停を終えると。

 推哆すいしは透明な書物に記述し始める。



 紀元前1600年。

 王朝は崩壊し。



 とうが建国した。

 しょう王朝が造られる。



 商王朝は大陸に新たなる息吹を与え。

 新たなる時代の訪れを……。



「なぁんて、そう上手くはいかせないわよ」



 推哆は筆を回しながら。

 修正を行った。



 紀元前1600年。

 夏王朝は崩壊し。



 湯が建国した。

 王朝が造られる。



 殷王朝は大陸に新たなる秩序を築き。

 並列世界の時代の流れに沿おうと。

 動き始めた。



「文字がない時代だから出来る荒技ね。文字が生まれていたら、流石に此処までの修正は出来ないわ。……さて、私もあのお方に報告に行かなきゃね」



 推哆は異なる階段から月へと向かう。



 月の前に佇む扉を開くと。

 宇宙空間が広がっており。

 膝を付けたまま。

 顔を上げずに報告する。



伏羲ふっき様。ご報告します。……啓、マリの二人は時代の英傑、昆吾こんごを打ち破り。新たなる王朝を築きました」



「……僕の前では、そんな恰好せず。普段の恰好と言動に戻っていいよ。不知火しらぬい



「あっ、さいですか」



 推哆は官僚の衣服を取り払うと。

 ツインテールの少女の姿に戻り。

 仙女の衣服に替わる。



 伏羲は透明な書物を受け取ると。

 流し読みしながら問いかける。



「……女禍じょかが送り込んだ。神格を持つ調停者の名は不明か。神具しんぐ四宝剣しほうけんを持っていたのに。よく、が葬れたモノだ」



「まぁ、腐っても。あのお方の名を冠していますからね。其れぐらい出来て当然でしょう」



「其れで、四宝剣による結界の解除はいつまで掛かるんだ。あの結界の所為で、此方から、其方の世界を見れないんだ」



「解呪の星を流しましたが。このペースだと、後、二千年は掛かりますね。三国志の時代まで進めば、解除出来ると思いますよ」



「……手を抜いている。って、訳じゃないだろうね」



「そう言うなら、伏羲様が解呪して下さいよ。四宝剣の呪詛の複雑さはご存知でしょう。妲己が反鏡させた宝具、太極図たいきょくずでも歯が立たなかったのですから」



「……出来るだけ早く解呪したまえ」



「了承しました」



 不知火は含みを持った。

 笑みを浮かべて返した。



 伏羲は書物を読み終え。

 口元に手を当てて呟く。

 


「しかし、加護もなく。よく、僕の調停者が造り上げた英傑を打ち倒したものだ。夏宮啓なつみやけいか。中々に興味深い」



「あら、意外ですね。てっきり、腸が煮えくりかえるぐらい怒ると思ったんですけど。器の小ささでは、伏羲様の右に出る者がいないってマジで思ってますからね」



「親しき仲にも礼儀ありと言う言葉がある。……言葉は、選び給えよ」



 伏羲の笑みを浮かべたまま。

 神具、太極図を起動させる。



 不知火は一歩下がり。

 大げさな動揺を示しながら言う。



「こんな軽口に切れてるって。やっぱ、めっちゃ器小さいじゃないですか。待って、神具使おうとしないで。その神具、洒落にならないから。ねっ、落ち着きましょう、ねっ!」



「冗談だよ。第一、夏の時代が幾ら乱れようが。文字のない時代だ。後で、如何様にでも修正が効く。……それで、女禍は気づいているのかい。マリの違和感に」



「いいえ。気づいてませんよ。マリの神格から持つ、認識阻害によって。女禍はマリを自らが送った調停者と誤認し。次の調停に向かわせました」



「なら、何の問題もない。このまま引き続き。啓とマリの監視を続けよ」



「了承しました。では、失礼します」



 不知火は緩い笑みを漏らすと。

 伏羲の前から消え去った。



 不知火は異なる空間に入ると。

 片側のツインテールを解き。

 耳元に手を当てて呟く。



「……女禍様。伏羲への報告が完了しました。色々と疑念を感じているようですが、まだ、確信には至れていないようです」



「…………」



 不知火は頷きながら返す。



「ええ。が作動している為。暫くは、伏羲の目を欺けるでしょう。唯一、懸念があるとするなら、伏羲が送り出した調停者でしょうか。あの二人の動きは全く読めません。基本、斜め下の行動ばかり行います」



「…………」



「勿論。次の時代も啓を補佐しますよ。……だって、調なんですから」

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これより時代を調停します 古代中国 夏王朝編 橘風儀 @huugi

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