第28話 『セマザサ族の刺繍』 くれはさん

〇作品 『セマザサ族の刺繍』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927861992866251

 

〇作者 くれはさん


【ジャンル】

 詩・童話・その他


【作品の状態】

 4,000字弱の短編・完結済。


【セルフレイティング】

 なし。


【作品を見つけた経緯】

 以前もくれはさんの作品を読んだことがあって、また何か読みたいなと思って訪問したところ、こちらの作品に出合いました。


【ざっくりと内容説明】

 タイトルにあるように、この作品は「セマザサ族」という民族のお話で、彼らの文化である「刺繍ししゅう」に焦点を当てた話になっています。


【感想】

『セマザサ族の刺繍』という作品は、最初はルポタージュだと思ったのですが、最後まで読むと、語り手(=主人公)の祈りのような話であることに気づきます。


 架空の民族の話のようですが、読んでいると本当にそういう人たちがいるんじゃないかなと思うような、そんな内容です。


 語り手の「私」のことはあまり詳しく書かれていないのですが、「セマザサ族(もしくは彼らの「刺繍」)を研究している、外部から来た人」ということだけは分かります。

 その「私」がセマザサ族の中に入り、彼らの文化である「刺繍」について学んだことを、朴訥ぼくとつとしながらも丁寧に語っていくのです。


 しかし「文化が刺繍」とはいっても、刺繍は生活費を稼ぐためのものではありません。

 セマザサ族は、生まれると黒く染められた布を与えられます。そして生まれた日のことを糸で縫うことで示すのです。つまり、彼らの「刺繍」というのは、人生の記録なのです。


 もちろん、子どものときは布に糸を縫い付けることはできませんから、親がします。そこには健やかに育つように、無事に大きくなれるようにという祈りも含まれているといいます。


 子どもが風邪をひいたり体調を崩したりするときも、彼らは刺繍をするのですが、その理由が「悪い精霊を封じ込めるため」。

 彼らにとって風邪などを引くのはウイルスなどの問題ではなく、悪い精霊のせいだと考えているのです。

 そのため、黒い布にはその悪い精霊を封じ込めるような刺繍を施します。


 そして子どもは自分で布に糸を縫い付けられるようになると、自分で刺繍を増やしていく――という話なのです。


 刺繍にはそれぞれ意味があって、見ると何があったのか、どういう天候だったのかということが分かるようになっています。「刺繍」ではあるのですが、「私」がそれを文字に起こした訳が「詩集」のようで、なんとも美しいです。


 日記にも色んな種類がありますが、セマザサ族の刺繍の日記は、読んでみたいなと思いました。

『セマザサ族の刺繍』の中で「私」が言葉に書き起こしたものだけでなく、他のものも刺繍の柄を楽しみつつ、その意味を知りたいなと。そう思い、どういうことを刺繍に記しているのだろうか――と想像するのも面白いかもしれません。


 日記は、基本的に人が見るものではないと思います。


 もしかすると秘密にしておきたかった恋心や、やってしまった出来事もあるでしょうし、人をひどくののしってしまっていることもあるかもしれません。


 日記ですから普通は自分でしか見ないですし、時にはそうやって感情を外に出すことによって、心を落ち着かせたり、気持ちを整理したりするのにも役立ちます。誰も見ていないからこそ、書けることもあるでしょう。


 でもセマザサ族の刺繍の日記(もしくは「人生の記録」)は、子を思う親の気持ちが見えたり、その地の自然のことも書かれていて、刺繍をした人物を通して雄大な景色が見えて来るようです。


 架空の民族ではありますが、きっとこの作者さんのなかで、セマザサ族は息づいているのだろうなと思いました。


 気になった方は、静かな言葉で紡がれる、セマザサ族の生活を見てみてはいかがでしょうか。

 

 今日は『セマザサ族の刺繍』をご紹介しました。

 それでは次回、またお会いしましょう。

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