第53話

「あの、なんて? 文化祭って言った?」

「えぇ、そうですよ? 後は自己研鑽を重ねて《黒級》に上がるだけの《茶級》の中で楽器を弾けるのが私しかいなくて。人手不足の中、下の階級生徒にやらせる訳にも行かないでしょう?」

「…………頭痛が酷くなりそうだ。一から説明を求めるぞ、俺は」


 菊の視線が桜蓮とシストの二人に向くも、彼女らは揃って明後日の方向に顔を背けている。

 どんどん表情が強張ると同時に目が死んでいく菊に、左近が苦笑いを浮かべた。


「聞いてなかったってパターンだな、コレ。あんな、菊。この二人は文化祭でバンド組んでステージに上がるんだ。《将軍》が盛り上げるための華やかさが足りないってな」

「全く失礼にも程がありますわ。この私が出れば、それだけで華やかになるでしょうに!」


 少々オーバーにも思えるリアクションを取る愛未に、僅かながらの苛立ちを覚えながらも菊は頭を抱えて吠えた。


「何を考えてんだよ、あの人はァ!」

「ん? そりゃ、文化祭を盛り上げる事だろ? 東日本のナンバーツーなだけあるじゃねぇか、今流れに乗りつつある東日本を更に上げることを考えてる、流石だよ」

「そういうことを言いたい訳じゃ———ん、ああぁ。なんでもねぇ」


 現在の状況を口に出して嘆きたくなるのを必死に我慢し、喉まで出かかっていた言葉を大きなため息と共に全て捨て去る。


「いやあの、ウチらもどうかとは思ったんだけど。でも相手は『七賢人』だし……」


 文化祭。


 毎年、この時期に開かれている〝最後の砦〟が主催となり、生徒たちが思い思いのことを行う行事。


 参加不参加は自由であり、基本的には《白級》から《青級》である戦闘に参加できない下級クラスが中心となって行い、上級クラスとの交流を行う———、というのが名目である、正式名称を〝青瞬祭〟という学内外を対象にしたイベントである。


 困り眉でこちらを見てくる二人に対して、菊も困り顔で返す。


「それで、北山くんにも伝言が。『この話を聞いたらすぐさま俺の元に来い、遅れは許さないぞ《影装束》』だそうです」

「いいですね、羨ましいです! 皆さんナンバーツーから期待されてて‼」


 先程までの重苦しい空気は何処へやら。


 滅茶苦茶な空気になった保健室は、いつしか自棄になっていた愛未の叫びと共に夕日が差し込む時間帯を告げていたのだった。

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