第52話

「……まぁ、待つしかねぇだろ。情報が少ない現状、下手に動いて勘付かれるわけにもいかない。この情報さえも漏洩していたら、疑いは俺ら三人と《将軍》、《明晰》の五人になるし、それはそうなったらやりやすい」

「冗談キツイって、ウチらとか考えたくないし。ましてや『七賢人』だったら東は終わりだもん。てか、データ取られたことは向こうも知ってるんだし、もういないんじゃ?」

「……どうだろうな。恐らく独断での潜入では無く、主とか言う奴の命令だろ。なら、多少のリスクを犯してでも情報を集める———そういった忠誠心が、アイツにある気がする」

「…………ねぇ、なんか二人とも喧嘩した? いつもなら夫婦みたいな漫才で笑い飛ばすじゃん、きっくーのつまらない冗談とか。きっくーもきっくーで微妙におかしいし」


 シストが居心地悪そうに手を遊ばせる。

 彼女によってこの空間はただの一言も外に漏れないように調整されていることもあり、空気が悪くなったのが理解できた。


(流石は守護霊、鋭いな。それとも分かってて聞いてるのか。……それはそれで嫌だが)


 どう答えたものか、という雰囲気が流れた。

 そんな雰囲気が出る時点で何かがあったのかは明白になるが、その空気は勢い良く開かれた扉によって一瞬で換気された。


「こんにちはですわ! 久しぶりの登場ですわよっ。全世界のファンの皆、お待たせ‼」

「愛未ちゃん? 相変わらずの意味不明な発言と行動は控えない? ……お久しぶりですね、北山くん」

「愛未には難しすぎるだろ。……よう、菊ィ。思ったより元気そうだな」

「あれ、豪邸トリオ。わざわざ来てくれたのか。悪いな」

「「豪邸トリオ⁇」」


 首を傾げる桜蓮とシストに、菊は簡潔な説明を行った。


「あぁ、そういえば会うのは初めてだったか。この可愛らしくも芯があるお嬢様は、ワカミミアさん」

「や、やだ……。可愛らしいなんて……。って、違います! 若見愛未ですわよっ‼」

「おい右太郎、こいつガチデレしてんぞ」

「ちょろインとはこういうのを指すんでしょうね……」

「うっさいですわよ、日頃褒めないあなた達が悪いんでしょう⁉」

「……で、こっちの揺さぶられている紺色の髪の眼鏡イケメンが、佐々木右太郎」

「どうも、初めまして。右太郎です」

「で、俺が大泉左近。灰色短髪が左、紺色長髪が右って覚えてくれよな!」


 突然の登場に濃すぎるキャラ。動揺が顔に出ている二人に、菊は苦笑いを溢した。


「前から《影装束》だの《スパイ》だのって蔑まれていた俺と、何の打算も無しに友達になってくれた馬鹿たちだよ。今までも俺らの周りをウロチョロしては声をかけてくれようとしてたんだよ」

「バッ……気づいてたならそっちから来てくれよ、恥ずかしいじゃねぇか‼」

「いいじゃない、気づいてくれているだけでも! アピールが実らない時ほど悲しいことは無いのよ⁉」

「愛未ちゃん、過去のことはもう振り返らないで行きましょうよ……。と、そうです」


 手を叩いて仕切り直す右太郎。その瞳は、優し気な色が見えている。


「話が脱線に脱線してしまいましたが、ここに来たのは《将軍》三木一馬さんから命令を受けまして。まぁ端的に言うと、お二人をもっと鍛えてくれとのことです」


 彼の視線は桜蓮とシストへ向いている。

 《茶級》である右太郎の真剣な瞳が貫いた。


「———文化祭の、ステージに立つために」


「…………は?」



 真剣な瞳から繰り出された素っ頓狂な台詞に、菊の口から間抜けな声が出た。

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