第51話

「ていうか、なんで手柄を譲ったの? 上手く使えば、今後の動きも楽になったんじゃないの、happy」

「こっちには爆弾がいるからな。目立つのは避けたいと思うのは普通だろ?」

「爆弾扱いするな」


 菊の横腹を抓る桜蓮の頭をシストに撫でて落ち着いてもらったところで、改めて菊が言葉を紡ぐ。


「別にあの評価は東日本全体に向けてなだけだ。《将軍》は理解してくれてるし、変わらずの自由に動いて良い許可も貰ってる。恐らく、次に下る命令にも柔軟に動ける計らいだろ」


 巻き込まれた当の本人である汐里からも了承は貰っており、少なくともこの件に関しては深堀りされることは無いだろう。


 一般人や、多少戦果を挙げた程度で関われるほど『七賢人』の名は安くない。

 加えて、一馬と菊からも口が酸っぱくなるほどに情報の漏洩を警戒させたことで、本人から真の詳細が語られることは無い。


 それほど根回しをしたことにも、面倒事を嫌がる《明晰》が二つ返事で了承してくれたのにも、理由が存在する。


 菊たち三人が〝ミーミル・オムニポテンド〟から入手してきたデータ。


 そこには、十二降天全員の真名が載っていると思われたが、乗っていたのは序列七位から十位の四つのみ。

 序列八位である《漸騎士》はつい先日に倒したことは記憶に新しく、加えて九位と十位の二機に対しても過去に倒していることが分かっていたため、その情報としては解析を待って使い切る目の前とも言えた。


 しかし、データに入っていたのはそれだけでは無かった。


「スパイ、ねぇ……。本当に入り込んでるのかな? にわかには信じがたいよ、difficult」


 ———スパイの存在。


 その事実が解読できたのはつい昨日。

 他でも無い西日本側の機械人間である幹部の一人が、この東日本の拠点である〝最後の砦〟に侵入していることが記載されていたのだった。


「だが、確かにそれなら辻褄が合うことが多いんだよな……」


 菊は顎に手を当ててため息をついた。

 その瞳の下は少しこけている。病院食が口に合わない弊害だった。


 成功したとはいえ、岐阜の中途陣営で起こった接敵は完全に待ち構えられていたもの。

 警戒に警戒を重ね、ギリギリに報告していても漏洩していた事実。

 ここから考えられることは、自分たちの動きと様子を見ることが出来る周囲の人間、あるいは上層部に潜んでいる人間という可能性が高いという事だった。


「名前って明らかになってるんだっけ?」

「あぁ。ミカワミア、だそうだ。最悪なことに序列七位のアイツ。それがこのスパイの信憑性を跳ね上げてんだよ」


 その名前は、岐阜の中途陣営を取り仕切っていた十二降天・序列七位と同じ。

 彼女本人が本当に侵入しているのならば、待ち構えられていたのも頷ける。


「考えたくないけどね、そいつが上層部にいるのは。あのタイミングは東京にも《漸騎士》が来てたせいで慌てていただろうから、学生でも情報を入手できるチャンスはあったはず」



 桜蓮も渋い顔を浮かべている。その場に、神妙な空気が流れた。

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