文化祭は、インビジブルガールに
第50話
二日ほど続いた雨が上がった東京では、至る所で歓喜の声が上がっていた。
〝号外〟と大きく見出しに書かれている新聞が、行きかう人々の手に握られているのに留まらずに地面にも落ちている。
踏み荒らされ、破れていくその文面には、こう書かれていた。
〝快挙! 長年苦しめられてきた《漸騎士》を、我らが『七賢人』《明晰・黒級》である織野汐里氏が撃破‼〟
「自力でデータを集めて、真名を特定したらしいわ!」
「しかも、こうなることを見越して予め〝神の雷〟の承認要請をしてたらしいな! 流石は先を見る眼を持つ人だ、格がちげぇ……‼」
「援軍も無かったんでしょ⁉ 機転も効かせて《漸騎士》を翻弄したらしいし、本当に誇りだわ……っ。あぁ、ファンクラブに入っててよかった! 今からクラブ会員限定のお疲れボイスが届くのが待ちきれない‼」
「納得、全然できないんですけど!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「声がでけぇ。ここ、病院だから。静かにしてくれよ桜蓮」
「でも桜蓮の気持ちも分かる。きっくーがあんなに頑張ったのに、無かったことにされた挙句、手柄を取られたのはお姉ちゃんとしても残念、sad」
「そうよね⁉ ……あれ、でもなんでシストも詳しく知ってるの? 寝てたよね?」
「それは勿論、私がきっくーのお姉ちゃんだから。知らないことは一つも無い、perfect」
「適当言うな」
白い天井、白い壁。窓から覗く景色には、風に揺れる木々が見えている。
シンナーの独特な匂いに、うっすらと鼻腔をくすぐる煙草の香り。
東日本政府が管理し、戦闘で怪我を負った者が優先的に処置を受けられる戦闘病院。それが、菊たち三人がいる砦病院のA棟である。
怪我を負った三人は戦闘終了後に仲良く運び込まれ、治療を受けていた。
元々新潟陣営で処置を受けていたシストと、思った以上に悪くなかった桜蓮は早々に退院するも、新潟決戦で本当の渦中におり、十二降天・
なお、固有次元開放術式については使用を許可されなかった為、慣れない病院生活を送っている菊である。
「全く、あれほど自損覚悟の戦闘は辞めてと言ったのに。修復工程を使わなければ大丈夫って意味じゃないんだけど、anger」
「しかもあれだけ格好つけて……。オチはこんなダサい結末ですよ、ってね」
あの時二人で共有していた作戦とは、桜蓮の能力に頼り切ったもの。
超電磁砲が降る直前まで菊が敵と切り結びながらポイントの真下で耐え続け、直撃する一瞬前に、桜蓮の次元術式によって離脱するという作戦。
しかし、それには大きな間違いがあったのだった。
「うるせぇ~‼ 第一、威力が弱まってることを忘れてたのは桜蓮も同じだろ? あの時指摘してくれたら、もっと他のやり方があったんだからな‼」
「うるさいなー! ウチだって久しぶりに菊くんとの共闘だったの、仕方ないでしょ⁉」
そう。それは桜蓮が忘却されたことで、能力の大きな弱体化を受けていたという前提条件を忘れていた、という点に尽きる。
その悲劇が引き起こした結末は語るまでも無い。
菊が超電磁砲の衝撃を受けるという事であり、今の状況に繋がっているのであった。
「あれだけ気にしてたのに、あの時だけ忘れるなんて案外二人ってお馬鹿さん、question?」
「違う。あれは、極限状態が引き起こした思考エラーなだけ。俺よりも余裕があったはずの桜蓮は知らんが」
「ウチだって大変だったんだから‼」
ぎゃいぎゃい、と言いあう病室の扉がガラガラと開く。
勢いのまま睨みつけるようにしてそちらを見た菊と桜蓮の顔が、数秒の後に汗をかき始めた。
シストが遅れて振り返る。
そこには、三人がまとめて世話になった主治医が笑顔を浮かべている。こめかみに、青筋を浮かべて。
「はーい。元気そうで何よりですね、お二人とも? 静かにできない馬鹿は、どうなると思いますか?」
「「すみませんでした」」
どこからか取り出したナイフを笑顔で揺らす彼女に、菊と桜蓮は即座に頭を下げたのだった。
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