第43話

「なるほどな……兜で守られていない顔面を徹底的に狙う、確かに最適解だ。だが、つまらないな」

「つまらなくて結構。こっちは勝つしか先に進めないからな……!」

「勝つための最適解、それは否定していない。だが、それが遠因となることも忘れるなということだ……‼」


 血まみれの左手で、拳銃を持ちだす水見。

 撃ちだされることを警戒する菊を嘲笑うかのように、彼は上空へと三発撃ちあげた。


「なにを……」

「さぁな?」


 不敵に笑う水見。罠の可能性は否めない。


 しかし———


「菊くん!」

「あぁ。この流れは、渡せない……‼」


 再び真っ赤に燃え上がらせる右手、そこから造り出されるはダイヤモンドの剣。

 熱が痛みに変わる瞬間、纏わせている氷を右手に当てて冷やしては製造を繰り返す。

 氷の柱が消えた頃、菊の周りには七本の剣が彼を守るように浮かび、展開されていた。


「いくぞ、《漸騎士》……‼」


 桜蓮からの手助けを受け、撃ちだされるように距離を詰めた菊。

 七本の剣を別方向から狙わせ、自身は先ほどと同様の打ち出す格好に入る、その瞬間。


「———牢獄よ、振り落とせ」

「———が、あ……⁉」


 上空から襲来した、細い糸。

 その全てが空中で菊を突き刺す。貫通した糸が地面に突き刺さり、宙で磔のような格好になった菊は、口から血を溢しながらも顔を上げた。


 地面に突き刺さっている剣が四本。

 腕とふくらはぎ、そして足の甲に刺さっているのが三本。

 胸に突き刺さるダイヤモンドの剣が一本。


 そこには、菊と同じく磔にされて口から血を流す水見の姿があった。

 しかし、その口角は苦しげに曲がっている菊とは違い、楽しげな上がり方だった。


「……あぁ、相打ちか。《茶級》とはいえ、流石は《英雄》の相棒だ。常にアイに敗北を予感させ、弱点を意識させる運び方だ」


 掠れた声、それは確かに阪神水見という存在が消え失せていく感覚に他ならない。


「喜べ、北山菊。『七賢人』でなければ倒せないと、深層心理にすら刻みつけられたアイを倒したユーは、十二降天の序列八位を屠った称号を誇り、その身に喜びを刻んでいいぞ」


 しかし、そう考えるにはどうしても、どうしても。


 菊の心に、闇を生み続ける違和感が広がっては消えてくれなかった。


「そして、その刻みを胸に死ね」


 ゴウッ、と強風が突如として吹き荒れる。


その中心は、今や目から光が消えて絶命しているはずの阪神水見。

 黒く、その中を見渡せないほどの闇を感じさせる渦が、彼を飲み込んでいく。


 そうして再び姿が見えた彼は———


「が、っ、あ……」

「9eb5q@mZsgtp\mZsegaをr0p\0qdsbk:yt@jyc@hr.jw@dyw@h;.u9」



 目で捉えられない程の速さと聞き取れない言葉と共に、菊の胸を貫いていた。

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