第42話
———本気だ。
目測でも十メートル以上は離れているであろう距離であっても、相対する水見から飛ぶ頬を刺すような感覚に、菊は腰を落とすに続けて左手に次元術式を展開させた。
「お望みの決戦だ。その言葉が哀れな虚勢か、それとも無様な愚行か。———覚悟を、見せるが良い‼」
怒号と共に水見が腕を伸ばす。その手には、拳銃が握られている。
銃声が轟く。一発、二発、三発。
しかし、その銃弾は桜蓮によって展開された風のカーテンによって防がれ、その場に落ちた。
「———奏でよ、牢獄の宴を」
水見が口ずさんだ歌、それを皮切りに落ちた銃弾から糸が伸びた。
一つの銃弾から飛び出た優に十本にもなる糸は、複雑な曲線を描きながら桜蓮と菊の下へと迫る。
「次元開放術式、詠唱省略。震えろ〝音〟‼」
アー、と何物にも例えられないような声が震え、迫る糸を押し返す。
桜蓮の得意な技の一つであった、風を利用しての音の防壁である。
だが、本来ならば無詠唱で行えるコンタクトも今は省略が限界。
既に肩で息をし始めている彼女を後ろに下げ、代わりに菊が距離を詰めるべく歯を食いしばった。
「墜とせ、星々‼」
星を爆発させ、その勢いで瞬時に距離を詰める急襲技。
横に移動した菊は、裏拳を叩き込む。剣で相殺された衝撃をものともせず、至近距離からのインパクト。
いくら魔剣と言えど、押し寄せる星の勢いには逆らえずに大きくノックバックする。
完全な追撃の機会。しかし、それを水見は眼光だけで制して見せた。
「ならっ……! 次元開放術式———氷柱‼」
己の周りに氷で出来た五本の柱を纏わせる。
水の次元を応用して氷属性へと変換させる上級技である。
一直線に、真正面から。
態勢は、自らのダメージを厭わずに仕掛けていた特攻と似た状況。それでも、菊はあの行動を繰り返す気は全く無い。
あの時の自分への情けなさ、その怒りを右手に集約する。
腕が真っ赤に光り、火傷する程の熱を持つ。
「
菊の有する〝機械装填・宝珠墜落〟。
それには存在する空気に一番多く含まれている成分から宝石を作り出す特性上、いくつかのタイプが存在する。
基本は水や二酸化炭素などの液体を素とした熱水の宝石。
降らせる宝石はアメシストやトパーズなどと言った、汎用性の高いものである。
しかし、そのタイプを得てして変えられるのが真の使い手。
宝石にも種類があり、それによって強度などにも違いが出るのは常識である。
一番固いのはダイヤモンド。
そしてその成分が多く含まれているのは、極度に熱い場所に溢れている炭素である。
「———
形成する組織の九十九パーセントが炭素でかつ、規則正しく並ぶことで完成する最高硬度のダイヤモンド。
それを、菊は己の熱を全て右手に集約させることで可能にする。
「があああっ……‼」
三歩分ほど離れた距離から振るわれた、菊の右ストレート。
そこから飛び出したダイヤモンドの結晶が、鋭く水見の右目に突き刺さる。
水見は荒い息を吐き、剣を持たない左腕で右目を抑える。
溢れる血が、腕を伝って地面へと落ちていく。
充血している左目が、菊を睨みつけた。
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