第39話
「——————は」
ぱっ、と意識が戻る。
急いで見渡すも、光る星の欠片がなおも落ち続けている状況。
意識をシストの中に飛ばした時間より、数秒も経っていない———、と菊は瞬時に理解した。
頭の疲れも無く、しかし話したことは覚えている。
カードを口に加えて特攻の準備をしていたことを思い出し、ぷっ、とカードを消した。
「……どうした、ユー。こないのか?」
火照っていた頭が急激に覚めていくのを覚える。
焦るあまりに思考を深くし、正常な判断が出来ていなかったことに失望する。
完全に自損覚悟での特攻攻撃に対するカウンターを、水見が用意していたことが今では理解できる。
そしてそれに気づかずに突っ込んでいれば、その瞬間に何事もなせずに終わりを迎えていた事にも。
今も眠っているのだろうか。
休息をとっているシストへと感謝の念を送り、菊は仕切り直して言われた言葉を思い出す。
そこで、耳元につけている通信機器にアクセスを示す音が鳴っていることに気付く。
目の前に控えている水見は、いつしかいつもの雰囲気を消している。
警戒を解かず、視線も動かさずに菊はボタンを押した。
『……あ、やっと繋がった! 案外、耳が遠いタイプなのかな少年は』
『誰ですか?』
『あー、自己紹介が必要だった。私、織野汐里。『七賢人』《明晰・黒級》でーす』
『めい……⁉』
思いもしないコンタクトに、少し慌てる菊。
だが、ぴくりともしない水見の姿が目に入り、落ち着きと緊張感を取り戻す。
『そんな大物が俺に何の用ですか?』
『あれ? キミの相棒と話してなかったのかな? 中途陣営から入手したデータの中に、キミが今相対している《漸騎士》についての興味深い情報があってね。さっき鏡さんとは意見交換し終わって、向かってるはずだから、その前に共有しておこうかと思って』
菊は目の渇きを覚える。
情報の入手に向けて脳の整理をすべく、意識して少し長めに瞬きをして備えようと、
「———させるとでも?」
「———ッ‼」
その一瞬を水見は許さない。
今まで動かなかったのは、この一瞬の隙をつく為だったとも思える程に完全に、読み切ったであろう不可避のタイミングで。
剣が首筋に伸び、振るわれる。
その刹那、菊の背後から暗黒が押し寄せその剣を防ぐ。
続けて水見の上空に次元が開いて竜のような頭部が出たと思えば、その口から繰り出される息吹。
強烈な風に当てられ、水見と菊の両者は強引に距離を取らされた。
「油断しすぎ、気を取られすぎ。そんなんじゃ、ウチとの結婚には程遠いよ?」
「シストにまた変なこと吹き込まれただろ。心配しなくても、まだ結婚とか早いから」
威力は全盛期の半分にも届いていなかった。迫力も、何もかもが足りていない。
身内贔屓で評価したとしても、ギリギリ《緑級》に届くかどうか。そのレベルだ。
それでも、彼女の中に積み重なっていた経験や記憶までは消えたわけでは無い。
戦闘の流れを読み、どの攻撃でどう操作していけば、優位に進められるか。
まさしく《英雄》として。
最高の状況選択をした鏡桜蓮が、菊の背後から姿を見せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます