第37話
「まさかこの武装が破られるとは。一度、神に無敵の概念を尋ねる必要が出来たな」
はらり、と吹いた風に金髪が揺れる。
センター分けにされている前髪から覗く赤い瞳、そしてややこけているとも見て取れる頬。
人間の身体で最後に減るのは頭部である、というのを機械人間にも当てはめることが出来るのであれば、痩せぎす体型であることが予想できる程の見栄え。
十二降天・序列八位。《漸騎士》阪神水見の顔が、戦場に初めて映し出されていた。
「捨て身の特攻———という訳でも無いのか。全く、ユーは狂っているな。痛みまでないものとしてしまえば、それは廃人と変わらないぞ?」
呆れた目で菊を見る水見の視線は、さきほど削ったはずの左手へと注がれている。
しかし、菊の左腕は何事も無かったかのように、そこに存在していた。
固有次元開放術式・修復工程。
シストより貸し出されていた次元開放術式である。
瞬時に任意のダメージを戻す能力。それは、致命傷と化す攻撃であっても例外は無い。
能力に頼り切った特攻攻撃。それが、凡人である北山菊が考え付いた、この戦闘での最善手である。
「自分でもそう思うけどな。でも、勝つために必要な事なら俺はするよ」
「……はぁ。アイとしては、策が通ったかどうかの確認さえできれば良かったのに」
呆れ顔と共に、その口は呪いの言葉を解き放つ。
「呪いは祝福に。追い求めるは———装填しろ、機造兵器」
水見の右手に剣が握られる。目に眩しい程の、金色に光る剣。
菊の脳裏に悪夢とも言える記憶が被さり、ノイズが走る。
それは、未だ拭えない己の無能さを集約させられた罪。
消えることは無い、背負う必要がある菊の枷。償うべき罰。
「経験で知っている。この展開は、放っておくと不味いものだとな。ユーは、ここで死んでもらおう。ファンによってなくなるコンテンツなど、そうは珍しくも無いだろう?」
「……上等だよ。俺は、二度も繰り返さない……‼」
飛ぶように駆る菊。
左手にはカード、そして口にもカードを加えている。本来ならば禁止されている、次元開放術式の同時使用。
身体に大きな負荷がかかって危険という認識の下に忌避されている技術を、菊は何の惜しげも躊躇いも無く開放する。
身体にかかる抵抗を操作し、速度を極限まで上げる風の次元能力と、歯で噛むことで発動するように調整した固有次元能力。
そして、右手には機械装填。
軽快に動きながら繰り出していく菊の攻撃を、水見もまた軽快にいなしていく。
右ストレートを放ち、躱された瞬間に己の背後から押し寄せる星々。
熱と力を持った衝撃に菊の背中が焼けていくが、その傷跡も歯を噛むことで消え失せる。
水見は器用に注がれる星々の圧力を剣で叩き落していく。
一つ、二つ、三つ———。
しかし、菊の行使した数は片手どころか両手で収まる程では無い。
確実に、そして的確に水見を襲い続ける。
今までなら通用していなかった攻撃が、今は当たってはダメージが入る感触。菊は動く身体を止めずに、思考にもふけっていく。
(何故、このタイミングで攻撃が当たるようになった? 何時からダメージが入った?)
星の残骸がキラキラと光り、それに反射して水見の金髪も明るく視界に入る。
———そう、タイミングとしては兜を飛ばした瞬間。
あの時に、何かが起こったのだ。
腕を犠牲にしたことでもたらされた、水見の驚き?
それとも、度重ねた攻撃による消耗?
「……違う」
そのどれでも無い、と菊は直感的に判断する。
驚きなど、これまでにも何度も見せてきた。
何より、桜蓮が相手していた時期はどうにかして撃破できるようにと秘策を幾つも用意して臨み、水見の想像の先を行っていた。
それでも鉄壁の甲冑は外れなかった。そして、攻撃の積み重ねもそれに応じて桜蓮の方が多く、強く与えていた事は間違いない。
蓄積という例も考えられるが、いつも逃げる水見の性格上、メンテナンスを欠かさないことは容易に想像でき、そして耐久値が限界ならスペアなどを使用するはずである。
そうであるのなら、まだ気づけていない要素がある。そしてそれが、水見の弱点。
機械人間がその身に宿している能力の〝真名〟。
それを暴くことこそが、撃破に直結するのだから。
「爆ぜろ、星々‼」
鋭い声音と共に、背後に展開された無数の星が一直線に、水見を目掛けて襲い掛かる。
「ユー、あまり舐めてくれるなよ……‼」
ぐっ、と腰を落として居合切りの体勢に入った水見は、瞬く間に襲い掛かる星々の襲来を切って落とす。一秒ほど遅れ、衝撃波が菊の髪を大きく巻き上げる。
ぱらぱら、と音を立てて粉々になった破片が散らばっていく光景が菊の目の前に広がる。ぐっ、と悔し気に唇を噛む菊は、またも自損覚悟の特攻を行うべく息を吐き、
「え……?」
目の前に広がっている光景に驚愕する。
周りに広がるはきらきらと光り輝く星が無数に浮かぶ、銀河の中。
その中央、菊の視線の先に人影があった。
その姿は忘れることは無く、そしてここに居るはずが無い人物。
「……もう、無茶しすぎなんだけど、きっくー」
「シスト? なんでここに」
周りからは菊の親戚で通り、シスト・キタヤマとしてその名を刻んでいる彼女が立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます