第36話
星が瞬き、地面に突き刺さっては爆ぜる。
時には空中で、あるいは上空で爆発して雨を降らせる。その下を、間を駆け抜けるは白く染まった髪の少年。
サファイアのように青い瞳が線を引いて動く姿は、残像のようであった。
「———せぁっ‼」
機械装填側の拳で、甲冑へと殴りかかる。
インパクトの同時に、星を爆発させることで衝撃と火力を底上げする接近戦専用の攻撃方法である。
右手で殴り、左手で次元を行使。
全くと言って良い程の異なる能力を瞬時に使い分けて戦闘を動かしていく菊は、早くも息が切れ始めていた。
「どうした、ユー。もうスタミナ切れか?」
「うる、せぇ!」
余裕は無い。余力など意味が無い。後のことなど、考える必要が無い。
負ければ最期。ここに全てを賭けずして、どこで賭けるのか。
水見は未だ、機械装填を解禁していない。
菊の攻撃は全て受け流している。特注仕様の甲冑なのだろう、決して弱くはない攻撃を水のように後ろへとずらしている。
戦闘経験の違い。
決して菊が経験を積めていないわけでは無い。水見が、菊の積んできた経験を優に上回る程の経験を有していた、その一点に尽きる。
「くそ、このままだと———」
ジリ貧だ。
攻撃は通らない。有効打は無く、危険は常に彼の頬を撫でる。
様子を見ている水見が完全に攻撃へと転じてきた瞬間に、この均衡は崩れる。
———では、どうするべきか?
菊は自問する。理解し、思い知っていた。
それこそ、辛酸を舐めさせられた程に。
天才ではない自分が、それでも天才の横に並び立つためにやるべき事とは。
悪夢に苛まれ、指摘され、無意識にまでも突き付けられた無力さを越える為に。
凡人には、自問するしかできない。
できる範囲での最善を見つけ出し、予想した結果以上の成果を挙げる。
及第点では届かないことを、知っているから。
そうして見つけだした答えこそ———
「……なんだ、今までよりも簡単じゃないか」
失敗はできない。
やり直しは通用しない。
背水の陣で挑まなくてはいけないことは、あの時から変わっていない。
———覚悟は、出来ているのだから。
「ふ、っ……‼」
菊は地面を踏みしめて一直線に詰め寄る。
水見の手が伸び、彼の肩が掴まれる。
実力差は明確であり、動きは止まらされて地面へと落とされる———。
だが、それは今までの菊であればの話である。
「……ユー、は」
「あ、ああ、あああ……‼」
ゴリ、という鈍い音と共に、鮮血が辺りへと飛び散る。
その出所は水見が握る左腕———肩からその先が無い、先程まで繋がっていたはずであった、確かに掴んで止めたはずだった菊の左腕である。
目の前に広がる衝撃で一歩遅れた水見を、満身創痍の菊は逃さない。
熱を持った右腕が振るわれ、銀色の兜が破裂する。
一度、二度、三度———。
細かい爆発を至近距離で三発命中させた菊は、一度後ろに引いて大きく息を吐いた。
頭部から煙が上がる姿、それが払われた先には赤い瞳が怪しく光っていた。
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