第28話
「突破した、が……」
「これ、って」
画面に映し出された情報、その内容に二人は凍り付いていた。
「〝時間巻き戻しの検証とその一部成功例〟……⁉ まさか、西側が時間にまで干渉できるようになっていたなんて……‼」
時間という概念は、戻らないからこそ神聖視されて惜しまれるモノである。
その概念にアクセスし、操れるようになってしまえば。二人の考えは瞬時に一致する。
「解読は後回し! 時間がかかっても、戻って策を練るのが最善だ‼」
「風を使うよ、捕まって!」
桜蓮の次元開放術式・風によって二人の身体は空気抵抗を感じさせない速さで動き、地下へと下っていった倍の時間で登る。
力任せにぶち破った隠し扉の先、そこに広がっていたのは———
「……ぁ、やっと、戻ってきたね、きっくーと……かれ、ん。かかり過ぎだよ、time」
右目は潰れて両腕は無数の岩が突き刺さっている。
床に折っている脚ですらも抉れ、その全てから流れ落ちる血で床を真っ赤に染め上げていたシストの姿。
そして、その先にいる興ざめた表情を浮かべる機械人間だった。
「なん———」
菊の言葉は続かない。
何故、回復しないのか。
その答えは、誰でも無い自分自身が知っていた。
彼女は、何の為に姿を現したのか。それを知っている菊にとって、糾弾することは裏切りにも等しかった。
「おや、新しいお客さんですか。では、挨拶を。私は辺東郎希。この岐阜陣営の主である十二降天の———」
と、そこまで言ったところで、彼は徐に床に膝をついて平伏した。
目の前に広がる惨状と、急な状況変化に戸惑う二人の背後から、声が響いた。
「あら。相変わらず殊勝な心掛けね、郎希。流石は私の右腕———と言いたいけれど。別に敵を相手に話しているときくらい、私を放っておいても気にしないわよ?」
「ッ⁈」
———寒気。
否、そんな生易しい言葉で片付けられるほどでは無かった。
一体、何時からいたのか。
声が聞こえた瞬間から、己の首元に刃が付きつけられているような。
冷や汗が止まらないほどの緊張感が、菊たち三人を包み込んでは閉じ込める程に。
「まさか。相手が邪魔な『七賢人』であれば話は別ですが、この程度であれば問題ありません。現に一人は瀕死に追い込んでおりますし、それであれば主に首を垂れるのが何よりの優先事項です」
「相変わらずお堅い頭してんな、郎希。もっと柔軟に行動しろよ、深愛様を守れねぇぞ?」
「……武一。お前は黙っていろ」
今も尚喋り続けている三人に、ただただ動けない状態を強いられていた。
「それに、時々ある悪い癖が出ていますわよ、郎希。その桜色をした髪の彼女、件の『七賢人』の《英雄》のはずです。水見が認めている相手、おおよそ貴方レベルが油断できる相手ではなくてよ?」
「……驚きました。全く気配を感じなかった」
「真の強者は爪を隠すらしいぜ、郎希。危なかったな、俺たちが来て」
「武一は黙ってろ。今は深愛様がお話をして頂いている最中だ」
菊は震える身体を抑えつけ、背後へと視線を送った。
短く乱雑に切られた前髪に、犬歯が目立つ口元。
そして、大きく開かれた瞳。その全てが赤く染まっている男が立っている。
体つきも印象通りの鍛えられたものであり、強者特有の雰囲気が迸っている。
だが、その彼が敬意を送っている横の相手———
純白とも言えるであろう綺麗な白い髪に、怪しげな光を持つ紫の瞳。体躯こそ華奢だが、身長は女性の平均値よりも僅かに上と感じられるほどの大きさ。
白いシャツに、腰の細さを強調させる黒いミディスカート。肩にかけるように羽織っている黒のジャケットが、ひらりと揺れる。
気づけば、菊の身体全てが危険信号を送っていた。抑えた震えは止まらず、瞳孔は開いては挙動不審に小刻みに揺れる。
「……あいつは、やばい」
菊の口から言葉が漏れた。
前方の青髪、後方の赤髪。その二人が醸し出している強者特有の雰囲気、それを大きく凌駕する。
恐れと言って差し支えないほどの感情に答えたのは桜蓮だった。
「数字が小さい程、持っている能力は強大になる。……なるほど、どうやらあの問題児が言っていた衰えだとかふざけたことは間違いじゃなかったらしいね」
———問題児。
桜蓮が追い詰めてはあと一歩で逃がしていた《漸騎士》は、ランクが四から八へと実力の衰えを理由に落ちたと親し気に話してきたのはいつだったか。
菊は、八の位になった水見としか接敵した経験がない。
それでも、目の前に立つ彼女を見て、そう思わずにはいられなかった。
「部下がお世話になった様で。
私がこの岐阜陣営を束ねる
———八位と七位。
たった一つの序列が違うだけで、こんなにもレベルが違うのか、と。
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